廊下に腰かけ素足を外へ投げ出すと、うっすらと積もった雪に触れた爪先がぴりりと痺れた。
白い幕に覆われた忍術学園の中庭は、静かで落ち着いている。雪遊びに勤しむ下級生はみな広い校庭に集まっているし、鍛練に励む喧しい同級生はマラソン大好きなもっと喧しい同級生と共に裏裏裏……山へ朝早くから出かけていった。は組の連中は連れだって町へおりているし。
風情と情緒に満ちた今日というとても貴重な日が休日でよかった。
「仙蔵」
角を曲がってやってきたのは、その情緒を壊さない同級生。
制服からかすかに湿っぽい紙のにおいがした。
「長次か。図書委員会も大変だな」
「好きだから問題ない」
長次は寒がりなところがあるからそのまま部屋へ入るかと思ったのだが、予想に反して温もりは私の傍らへ。
中庭へのばされた足は忍者足袋を履いてはいたが、やはり制服だけでは寒いものは寒いだろう。戯れに、床につかれた手に手を重ねてみても払われることはなかった。
ふと、鳶色の視線が私の大腿に注がれる。
無骨な指が寝間着をめくると斜めに引きつれた肌が覗いた。何針も縫われた跡はけして見ていて気持ちのいいものではない。
それは先日の実践演出で犯した失態を表す傷痕で、正直なところ誰にも見られたくはないのだが。
「…痛むか」
「いいや」
「嘘だな」
長次はもう長いこと自分の顔に鎮座する傷を手の甲でなでてみせた。
自分が痛むのだからもっと大きな傷が痛まないはずがない。誤魔化せると思うな。そう言いたいのだろう。
「長次には敵わないな」
大きな手を長次の顔からどけて、代わりに私の唇を寄せてやる。当たり前のことだが、とうの昔に治った傷は成長した皮膚によるわずかな隆起以外はなめらかだった。
擽ったそうに震える肩がなんだか可笑しい。
込み上げる笑いを噛み殺していると、少し眉をひそめた長次はすっと腰を折って。
仕返しとばかりに私の傷に接吻した。
冬の寒さをまとった唇は剥き出しの肌にはあまりに冷たくて、鳥肌が立つ。止めさせたいのだが、色素の薄い髪から見え隠れするうなじや、静かな空間にやけに響く肌に吸い付くような音が私の手を固めてしまった。
「長次、」
「消えればいい、のに」
ああ、嗚呼。
なんて優しいのだろう。この傷は消えない戒めなのに。
どうせ口付けるなら私の唇にしておくれ。
大腿を滑るやわらかな感触を早く舌で味わいたくて、きっとほのかに赤く染まっているだろう顔を上げてほしくて、細い髪を梳く。
ちらちらと降り始めた雪が他の同級生たちを足止めしてくれることを祈って、未だに頭を下げたままの体を冷えた廊下に転がした。
きれいなひと
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放想コードの浅霧さんが素敵なお題を引いてくれましたよ奥さん!←
ちゅーだけでどこまで色気を出せるか挑戦。玉砕。
中在家長次は〜っていうのだったから勝手に仙長にしちゃったけど良かったのかな(´・ω・`)
他のCPのが良かったら書き直しますのでっ
浅霧さんリクエストありがとうございましたー^^*
中在家長次は雪が降る日に戸惑いながら、傷痕に慈しむようなさよならのキスをするでしょう。
あれ、戸惑ってぬぇ←
さよなら要素も薄すぎる←
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