※盗賊パロ



この世界のどこかに、エアルを消費しない魔道器があるらしいぜ。

酒場で耳に飛び込んできた話に、紛い物の心臓が跳ねた。
そこは人に溢れていて賑やかで、向こうひとつ隣の席の会話さえ聞こえないのに、その言葉だけはやけに鮮明に聞こえて。無意識のうちに、手を胸へ、エアルを消費しない魔道器へと伸ばしていた。

「おっさん、どうかしたのか?」

俺のその小さな動きに首を傾げるユーリ。きれいな瞳に心配の色が見られて、あわてて取り繕う。

「何が?」

まだ、この胸のことを知られる訳にはいかない。素性を知られてはいけない。
アレクセイが掲げた、世界平和のための盗賊撲滅計画を潰すことは許されない。
するとユーリは案外簡単に引き下がってくれて、これから酒に代わる今日の「収穫物」をいじりながらグラスを煽る。
盗賊と、盗賊のフリをした兵士。
なんとも滑稽な状況である。

「そういやさ」
「ん?」
「エアルを消費しない魔道器って、いくらぐらいで売れると思う?」

尋ねられて、また跳ねる心臓。
あの話を、ユーリも聞いていたのか。
酒場に入れない子供達の代わりに、酒を飲みながら情報収集をしているのだ。聞き耳をたてていてもおかしくはないが、その話は聞き逃してほしかった。

「欲しいの?」
「んー、微妙。エアルがいらないってことは、そんだけ何かリスクがあんだろ。それに、そんな物じゃ良い土産にはならねぇし」

アスピオの魔導師に売り付けるならまだしも、生まれ故郷の下町ではせいぜい魔核が子供の玩具になるだけだ。ユーリからしたら、特に欲しいものでもないらしい。
訪れようとしていた危機の足音が遠ざかって、ほっと安堵の息を吐く。
まだ、仲間ごっこをしていられる。

「ああ、でも」

グラスに残っていた酒を全て喉に流し込むと、ユーリは俺の頬を捕まえて。

「あんたの『ハート』は欲しいかもな」

え、
きれいに弧を描く唇が、俺の唇から直接言葉を飲み込む。
半開きだったそこから口内に熱いものが侵入してきて、歯列をなぞったり顎の裏側をなめたり、人が沢山いるってのに彼の舌は遠慮と言うことをしない。
混ざり合った唾液が全部流れ込んできてしまいには口の端から溢れて、背筋が震えて。
でも、それより俺を震えさせるのは先程のユーリの言葉。
たっぷり俺の口を蹂躙してから離れていった唇はやっぱりきれいな三日月で、目の前が真っ暗になった。

「あんたの『ハート』は俺のモノだ」


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気付いてるユーリとか。
盗賊設定ほとんど活かされてないねorz
いつかリベンジ。


 


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