古代都市タルカロンでの激闘を経て、一ヶ月。星喰みの脅威から解放されたテルカ・リュミレースは徐々に落ち着きを取り戻し始めていた。

「久々に帰ってきたけど、変わらず元気な街で良かったわ」

黄昏の街ダングレスト。その街の奥まった場所に位置するユニオン、更にその建物の最奥にある広間。窓から街を見下ろして、レイヴンはふと微笑んだ。
その隣で不機嫌そうにぶすくれているのは、亡きドン・ホワイトホースの孫にあたるハリーである。
もともと強面という訳ではないが、鼻の傷のようなペイントに皺を寄せているその表情は常よりも険しい。

「言いたいことはそれだけかよ」
「うんにゃ。んな訳ないじゃない!」

ハリーの方へ振り返り、大仰な手振りで否定するレイヴン。少し痩せた、と言うか、やつれたような、元から小柄だったのが更に小さく見えるのは気のせいだろうか。
レイヴンは薄く笑みをうかべ、背筋を伸ばした。ハリーは見たことのない、しゃんとした姿。

「あんね、ハリーに謝らなきゃならないことがあるのよ」
「なんだよ」

飄々としていて、風来坊と評されるレイヴンが改まった態度を取るなんて。
嫌な予感しかしない、とハリーは苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。
普段なら何よその顔、だの何だの尖らせたよく動く口から文句が垂れるのに、今日はそれもない。
穏やかな、経験も喪失も何も足りないハリーにはまだ遠い「大人」の表情をうかべ、レイヴンはわずかに首を傾げる。

「もう知ってるかもわからんけどさ。俺様、騎士団の人間なのよ。場合によってはドンを抹殺するよう、元騎士団長から送り込まれた、ね」

ドンの抹殺云々のことは知らなかったが、レイヴンが騎士団の有名な騎士だということは聞いていた。
シュヴァーン・オルトレイン。
十年前の戦争を生き抜いた英傑だ。
それだけの大物がギルドに、しかもそのトップに君臨する天を射る矢にいたとなれば、狙いはドンだったのだろうことも予想はついた。

「ドンは知ってたけどね、ハリーや皆を騙してたんだ」

未熟で幼いながら、レイヴンがどこか普通とは違うのは気付いていた。
何も訊かなかったのは、ある意味俺の意思だ。

「すまなかった」

レイヴンらしからぬ口調で、奴は頭を下げた。こいつの頭の天辺なんて、初めて見た気がする。
───それほどに俺はこいつを知らない。
ハリーは小さく息を吐くと、何も知らなかった十年前より摩れて濁った目を細め。

「…で? 騎士団に戻るのか」

弾かれたように顔を上げた、レイヴンの間抜け面と言ったら。
強張った空気が一気に緩んだような。

「い、いや…俺は……」
「天を射る矢に残るんだろうな」
「うん、まあ、そうなんだけど…」

何か納得出来ないことでもあるのだろうか。
妙に歯切れの悪い返答ばかりするレイヴンに、ハリーは苛立たしげに腕を組む。
ハリーが怒ったところで、しょっちゅうドンに怒鳴られていたレイヴンに何ら大きな効果は無いのだが、いかんせんハリーの意図を読み取れていないからいけない。
碧の瞳は困惑するばかりだ。

「じゃあいいだろ」
「でも、俺は…」
「生憎と俺は生まれも育ちもギルドの巣窟ダングレストだからな。騎士団のお偉いさんなんざ知らねえよ」

これだけ言ってもまだ理解出来ないのか。そんなのでどうやって十年も真実を隠してきたんだか。
ハリーは呆れたように肩を竦め、半開きの唇に自分のそれを寄せた。
ほんの一瞬の、永遠のような出来事。

「……は、」
「酒臭い。いい年なんだから飲み過ぎんなよ」
「はあ!?」

やっと事態を呑み込めたらしいレイヴンの顔が一気に赤くなる。
余裕だったハリーの顔も、それに合わせて血が上って。

「お前はお前、だろ」

真っ赤になりながら言っても何も格好つかないのだが、レイヴンの目には、世界の男前代表である黒髪の青年よりも男前に見えたのだから困ったものだ。
つまり、天を射る矢の幹部は三十半ばにして恋に落ちたのだった。


アイムホーム!
(遅すぎるわ、馬鹿)


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夜中のテンションなんで色々おかしいけど気にしない←

ハリーはヘタレ:男前=7:3くらいに育ってくれると信じてます笑


 


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