「心はいつもピンク色、食らえ恋心。……アリーヴェデルチ!!」
桃色の花弁が風で舞い上がり、宙を舞う。と同時にそれまで戦っていた魔物が消え、振り向けばエステルに向かって腕を広げるレイヴンの姿。
自分でもよく解らないけどなぜかため息が出て、エステルが来ないことに毎度ながら落ち込む肩に手をおいた。
「よー、お疲れおっさん」
「青年こそ、詠唱の援護ありがとね」
へにゃりと笑うレイヴン。このおっさんは、相変わらず気の抜けるような笑い方をする。
また吐きたくなるため息をぐっと堪えて、ユーリも若干ぎこちない笑みをうかべた。
それに、怪訝そうに小首を傾げるレイヴン。
しかしそれも一瞬のことで、リタの罵声混じりの呼び声で昼飯だ! と駆け出そうとするのを、手に力をこめることで防いだ。
「なぁに青年?」
「あんた、今度からアレ禁止な」
「アレ?」
嬢ちゃんに絡むこと?
そう訊ねるのに首を横に振ると、レイヴンはじゃあどれよ、とほんの少し口を尖らせた。
「あの術だよ」
「術……ああ、アリーヴェデルチ?」
「そうそれ」
「なんで?」
レイヴンはこてん、と再度首を傾げた。
その仕草は小動物みたいで可愛いのだが、同時になぜこうも無防備なのかと不思議に思う。
へらへらしてるし落ち着きがないし、おっちょこちょいだし警戒心が足りない。相手をその気にさせるようなことを簡単に言って、どうして普通でいられるのか。
「恋心の安売りなんざするな」
いちおう恋人という立場にいるユーリとしては、ただのふざけた詠唱だと解っていても怒らずにはいられない。
「……青年…」
「なんだよ」
「魔物に嫉妬してるの?」
まさか、とでも言いたげな表情に、ユーリの中で何かが消し飛んだ。
真っ赤になる顔を隠すように、レイヴンを抱き上げて肩に担ぐ。小柄なおっさんは筋肉はあれど、やっぱり自分よりだいぶ小さいし軽い。
急に視界が廻ったレイヴンは状況をたっぷり時間をかけて飲み込み、
「ちょ、せ、青年! 下ろしなさいっ」
「やだね」
「もうアリーヴェデルチしないから!!」
だから下ろして、と暴れだす恋人に、特技の恋心と愛の快針も禁止令を下すのは忘れない。
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何がしたかったんだろう自分。
多分おっさんを担がせたかったんだ。
多分。
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