※先天性にょっさん
ED後夫婦
リタっちはほんの少しだけ目を逸らして、眉をハの字に寄せて小さく呟いた。
「……無理よ」
それは俺にとって絶望的な返事で、覚悟してたとは言え正直ショックで倒れそうだった。
リタっちが俺の体に関して下す判断はいつも正しくて、それに従わなければすぐに限界が来る。大丈夫だと虚勢をはって無茶をして、みんなに迷惑をかけたのはあの旅だけでいったい何回あっただろう?
だけどそれでも、今回ばかりは退く訳にはいかないのだ。
これは俺だけの問題じゃないんだから。
「でも、今までみたいに戦ったりしないし、激しい労働もしないから…」
「無理。普通にしてても辛いんだから」
「俺様が普通じゃないって言いたいの」
「そうじゃなくて……ごめん、そういう意味じゃない」
「や、いいのよ」
「でもやっぱ無理ね。私はそこまで医学に詳しい訳じゃないけど、年齢も関係してくるし」
「体力には自信あるわよ?」
「あんたの場合は生命力の問題よ」
リタっちは最近の検診のカルテといくつかの資料を並べ、ここ、とカルテの1番上に書かれた数値を指差した。
ほぼ毎週の検診結果は2ヶ月前から今日に近付くにつれて芳しくないものへ変化している。それも、今までに何度かあった魔道器の不調とは比べ物にならない勢いで。
リタっちとしてはあまり見せたくないものだったらしく(優しい子だ)、歪めた顔を俯かせた。
「だんだん調子が悪くなってきてる」
それも、原因不明なの。そう口にする彼女の表情はうかがえないが、小さな肩が震えているのは見間違いではないはず。
「こんな状態で、もう1人分の命なんか抱えられる訳無いでしょ!」
「でもリタっち、これは、」
「私は、あんたらが幸せにしてんならそれで良い。それが良い。でも、どっちか片方でも辛そうなのは嫌なの!!」
だから、ダメよ。
珍しく自分の本音を吐き出す若き天才。感情を爆発させることはあっても本当の気持ちを吐露してくれることはあまり無くて、だからこんな状況なのに口許が緩んだ。
本当に、優しい。
まだまだ──自分と背丈はあまり変わらないが──幼い体を引き寄せて、ありがとうと囁く。こんな時だけ、鼓動が無いと言うのは便利だ。
「ありがとうリタっち。でもあのね、」
俺はね、と続けようとした瞬間、一気にリタっちとの間に距離が出来た。
細い指が操作盤を猛スピードで叩き、もう片方の手はカルテを何度も何度も捲る。
だんだんとその眉間にしわが寄って、取れなくなっちゃうわよと人差し指を当てると同時に思いきり睨まれた。
「あんた…まさか……」
「あ、バレた?」
その反応にへらりと笑うと、妊娠2ヶ月の相手であるにも関わらず容赦ない鉄拳が飛んできた。
「相談が遅いわよバカーっっっ!!」
「その後ね、リタっちってば泣きながら任せなさい! って」
「ふうん、良い人なんだね」
「そーよ。俺様愛されてるからさぁ」
「ぼくは? ぼくは?」
「勿論、お前ら2人とも愛してるわよ」
不安そうに見上げてくる碧と紫をよしよしと撫でると、紅葉みたいに小さな手が腰に抱きついてきた。
「おーいシュヴァーン、ランバート!」
「あっ、お父さんが呼んでるわよ」
「「はーい」」
父親のもとへ絡まる足をフルに動かして駆けていく弟と、その後を落ち着いた足取りで追う兄。
その背中を見つめて幸せだなぁ、なんて。1人でにやけていると、大きな『お父さん』が子供を両手にぶら下げてやって来た。
「何をにやけてんだよ」
「べっつにー?」
青年には内緒、ともはや青年では無い『お父さん』に笑いかけると、少しだけ拗ねたような表情が返ってきた。
「3人目もよろしく頼むぜ、レイヴン」
「優しくしてね? ユーリ」
とりあえず今から、リタっちにまた殴られてこようと思う。
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やっちまったぜ出産ネタ。
ただ兄弟を書きたかっただけ。
シュヴァが弟でランバートがにぃに笑