※主人公ホウオウをゲット後
「ハヤトくんは、鳥ポケモンが好き?」
大切な相棒の翼の手入れをしてやっていると、不意にマツバが訊ねた。
縁側で湯飲み片手に俺とピジョットを眺めているだけだったマツバが、奴の相棒みたいに足音もなく近付いてきて。背後から回された腕が心底邪魔だと思った。
「ああ」
「ホウオウがね。…僕が追いかけていたホウオウは、もういないんだ」
「…へぇ」
知ってる。つい最近そいつとバトルしたばかりだ。
ホウオウの桁違いの攻撃力に俺のピジョットは負けてしまった。だからこうして傷付いた羽をケアしているのだ。
マツバの顔が肩に乗っかる。
翼の手入れを諦めて腕をおろすと、ピジョットは何を察したのか小さく鳴いてから空へ羽ばたいていった。
相棒に触れていた手を、代わりにマツバの手に重ねて。
「僕の…ホウオウ……」
「別にお前のじゃないだろ」
「…ハヤトくんは冷たいね。君ならこの気持ちを分かってくれると思ったのに」
それならミナキとか言う友達の方が適任なんじゃないだろうか。マツバがホウオウを追うように、ミナキもスイクンを追っていたんだから。しかもけっこう粘っこく。
俺としても、ホウオウには興味があった。
マツバみたいに子供の頃からの夢、とかではないけど、絵本で読む、父さんが話してくれる伝説のポケモンに憧れていた。
きっと、ホウオウが雨上がりの青が深い空を飛んでいるのはさぞ美しいんだろう、と。
「あいつが、ちゃんとホウオウを大事にするなら俺はそれでいい。マツバだってホウオウを手に入れたいとか、そう言うんじゃないんだろ?」
「……まあね」
マツバの顔は上がらない。声の調子も沈んだまま。
目線を上げると秋晴れの空をピジョットが滑空していて、生き生きとした姿が眩しい。マツバも見ればいいのに。
「なあマツバ、顔上げろよ」
「もう少しだけ」
「ピジョット綺麗だぞ」
マツバにとっては、最近ポケモンを知ったばかりのトレーナーに長年の夢を奪われたも同然なんだ。簡単に傷が癒えるとは思わない。
そっと触れた金髪の奥、マツバ自身は、きっと聖なる炎に焼かれた翼よりもぼろぼろだ。
そんなマツバに俺がしてやれることは数少ない。
「マツバ」
気が済むまで抱き枕になってやろうじゃないか。そして撫でてやろうじゃないか。
遠くで父さんが俺を呼ぶ声が聞こえたけど、耳許でする泣き声で聞こえないふりをした。
僕の夢が壊れた日
----------
ハヤトくんは鳥ポケモンが好きなんだから、マツバさんとホウオウトークしてもいいじゃないか。
と思ったんだけど盛大に趣旨がずれました←