とある国のとある街に、一人の音楽家がいました。
音楽家は毎日曲を作っては美しい銀色のハーモニカで演奏しました。音楽家が作るのはどれも楽しい曲だったので、街の人たちはその音楽家が大好きでした。
ある日とても悲しいことが起こりました。
音楽家の大事なハーモニカが壊れてしまったのです。ハーモニカは愉快なラの音を出せなくなってしまいました。
音楽家は嘆きました。街の人たちも嘆きました。
みんなが声をあげて嘆くなか、一人の少女がにっこり笑って言いました。
「ラの音なら私が歌うわ」
音楽家は嬉しくなって、少女の頬にキスをしました。
次の日、また悲しいことが起こりました。
音楽家のハーモニカが優しいシの音を出せなくなってしまったのです。
音楽家は嘆きました。街の人たちも嘆きました。
みんなが声をあげて嘆くなか、昨日の少女がにっこり笑って言いました。
「シの音も私が歌うわ」
音楽家は嬉しくなって、少女の目蓋にキスをしました。
次の日、またまた悲しいことが起こりました。
音楽家のハーモニカはどの音も出せなくなってしまったのです。
音楽家は嘆きました。街の人たちはそろそろ違う楽器にしたらどうかと言いました。
音楽家は声をあげて泣いたあと、昨日の少女に頼みました。
「どうか他の音も歌っておくれ」
少女は笑って頷きました。
「どの音も私が歌うわ」
音楽家は嬉しくなって、少女の唇にキスをしました。
しかしある日、悲しいことが起こりました。
音楽家の大事な少女が歌えなくなってしまったのです。
少女の裂けてしまった細い喉を見て、音楽家は嘆きました。街の人たちも嘆きました。
それから音楽家は言いました。
「誰か代わりに歌っておくれ」
みんなが声をあげて嘆くなか、一人の少年が石を投げて言いました。
「お前のせいで妹の喉が裂けてしまったというのに!」
街の人たちもみんな少年を真似して、楽器を探す音楽家に石を投げつけました。
音楽家は嘆きました。
誰も私の曲を歌ってくれない。誰も私の楽器になってくれない。
音楽家は大声をあげて泣きました。何日も何日も、石の雨の中泣きました。
ある日とても素敵なことが起こりました。
少女が音楽家に新しいハーモニカをプレゼントしたのです。
音楽家は嬉しくなって、お礼を言おうと口を開きましたが、少女と同じように裂けてしまった喉からは何の音も出ません。
音楽家は嘆きました。
悲しい音楽家の
悲しいおはなし。
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後味の悪い話で申し訳ない(´・ω・`)
暗い童話調の話を書くのが好きです←
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