口内に溜まった鉄味を唾と一緒に出す。ぺ、と地面に吐き捨てたそれは赤黒く濁っていた。
頬の内側の肉を歯で傷つけてしまったらしい。
その原因、横っ面を張った男は俺がいつものように殴り返さないことに動揺しているようだ。拳は構えたまま、怪訝そうに眉を寄せていた。

「なんだよ。今日はえらく大人しいじゃねェか」
「るせェ」

しりもちを突かされた体勢のまま起き上がらず、逆に地面に大の字に寝転ぶといよいよ切れ長の瞳が困惑しだした。
何だかんだ言っても六年という歳月を共にした仲間だから。
喧嘩は絶えないが、本当に憎み合うことはない。
覗き込んできた心配そうな顔は逆光で薄暗く、輪郭がぼんやりと空気に滲んでいる。

「なァ」
「あ?」
「例えばお前が俺に手を差し伸べたとして、その手を取ったら雨が降ると思うか」

俺らが仲良くすると雨が降る。時には雷も伴って。
そんなに、天も驚くほど俺たちの仲が良いことは摂理に背いているのだろうか。
留三郎は小さく肩を竦めて、

「試すか?」

手を伸ばす。
口許が緩んでるようなのは錯覚か?

「ああ」

その指先を握りしめた、ついでに起き上がった勢いで腰に抱き着くと、晴れていたはずの空に、暗雲が垂れ込めた。


都会の
うつくしくて、許されないもの

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BGM:謎/謎

けんかっぷる留文が好き。


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