※ちょっとだけ忍ミュ第1弾ネタ
でも普通に読めると思います
伝説のプロ忍者と呼ばれる赤壁。
かつて赤壁と心を通わせた友人で、火薬の扱いに長けた抜け忍の新吉。
新吉抹殺の忍務を遂行しようとする赤壁の姿が、新吉と赤壁の関係が、どうも他人事に思えなくて。
敵対していたその時は何も思わなかったが、時間が経った今頃になって、恐ろしくなった。
まるで、将来の俺たちではないか、と。
「で? だから穴丑にはなるな、と。なんと馬鹿馬鹿しい」
鴉の濡れ羽色をした髪を無造作に掻き上げ、仙蔵はふんと鼻を鳴らした。
「やけに女々しい考え方だな、文次郎。似合わなすぎて臍で茶が沸くぞ」
「うるせぇよ」
俺はただ、不安になったのだ。
もしも仙蔵が就職した先で穴丑の仕事を受け、抜け忍として追われる身になって。いやそんな事にならずとも、何らかの事情で俺が仙蔵を殺さなければならなくなったら。
そのどこか中性的な痩身に、刃を埋めなければならなくなったら。
そんなことが恐ろしいのなら、忍者などやめてしまえ。自分は家業を継いで海で働けば良いのだ。
なんてそれこそ馬鹿馬鹿しい、この六年を無駄にするような考えが起きてしまうほどに、俺は恐れた。
「いつからそんな腰抜けになった」
仙蔵は笑う。腰抜けか、言い得て妙だ。
仲間を手にかけるかも知れない恐怖に苛まれたことは、今までに何度もあったし、けれどそれは最上級生になった日にやめようと誓ったはずだ。
それでも、あの赤壁と新吉の関係は、ひどく俺の心を揺さぶった。
赤壁の言葉のせいかも知れない。赤壁も、仲間を手にかけられるか、といった類いのことを言っていた。
覚悟が無ければ切り捨てられるのだと。
「俺は、もし戦場でお前やみんなと対峙した時、刀を向ける覚悟をした」
「ああ。お前が一番最初だったな」
「だが、お前たちと対峙する覚悟は出来ていないのかも知れない」
誓いを、覚悟を立てる度、心の中で泣き叫ぶ子供がいる。
戦わなければいけないのなら、いっそもうずっと会えなくても良いから。だから、どうか俺の前に敵として現れないで。
嗚呼、なんて弱いんだろう!
「馬鹿者。そんなもの、私とて無いわ」
ふ、と行灯の火を吹き消して、仙蔵はまた笑う。
長屋の暗闇に浮かぶその白い面は能面のようで、だが様々を表す表情を纏っていた。
白く浮かび上がる腕が、掌が、指先が、俺の毛先だけ傷んだ髪をすくい、はらりと落とす。
なんだかその手つきが柔らかで、もしかしたら明日は雨かも知れない、なんて。
「私も、お前を殺すくらいなら会いたくない。だが、お前に一生会えないのも嫌だ」
「我儘め」
「何とでも言え。私はお前を一等気に入っているのだ」
夜気に冷えた薄い唇が、かさついた俺のそれを一瞬掠める。
「だから、私は命ぜられたら穴丑にもなるぞ。代わりにお前と敵対することになったら、お前の両手足を折るか、死なない程度に焼いてやろう」
「はっ。……恐ろしいな。おまけに俺に得は無しか」
「何を言う。私が傍に置いてやるのだぞ。剣を交える必要も無い」
そう言えば、こいつに口で勝った覚えは無いなぁ。
「お前は世界一の幸福者だな文次郎」
だから、そのよく動く口を信じてみるしかない。
俺の足りない脳よりも確実なのだから。
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赤壁と新吉が、文次郎と仙蔵に脳内で自動変換されたので←
何が言いたいかと言うと、つまり仙蔵は文次郎が一等好きで手放したくないと言うのと、
ただ仙蔵に「一等」って言わせたかっただけです笑