裏山へお花見に行こう!
スパンと小気味のいい音をたてて開いた障子の向こうに、はちが仁王立ちしていた。
丸い目がきらきらと光っていて、遠足が待ちきれない一年生みたいにわくわくしているのがよく分かる。
にっこにっこ満面の笑顔のはちに今すぐにでも良いよと頷いてやりたいのだけど、それは布団の住人になっている三郎に全力で阻止された。

「ダメだ。いかん。木がある場所には行かない」

三郎の声はいつもより低く、ぐずぐず鼻をすする音が混じっていて聞き取りづらい。
それでもお花見に断固反対なことだけは分かった。
三郎はなんの病気か呪いか、春になると涙と鼻水が止まらなくなるらしい。しょっちゅう目を擦ったり鼻をすすったりするせいで、赤く腫れ上がったそれらが痛々しい。
しかし風邪をひいた訳ではないらしい三郎は、布団を剥ごうとするはちに元気に対抗していた。

「なんでだよ! 桜きれいだぞ!」
「木に近付くとひどくなるんだよ!」
「気のせいだって。気分転換に出掛けようぜ三郎」
「勝手に行け」

さんざん喚き散らすはちはまるで駄々っ子だが、三郎もひどい。冬に布団から出たがらない猫みたいだ。
不意に、なあなあ、と呼び掛け続けていたはちの声が止まる。
決着はまだつかないだろうと思って開いた読みかけの本を置いて、二人の方を覗いてみると、はちが座りかけの中途半端な状態で固まっていた。

「なあ、はち。私は桜よりはちと寝たい」

良いだろう?
はちの頬に手を滑らせて三郎が薄く笑う。
赤い目は潤んでいて、その声は泣く寸前みたいに詰まっていて、はちの手を握って誘う姿はまるで、

「そんな鼻水ぐずぐずの三郎とは寝たくない」

まるでかっこよくなかった。全く全然。
再び花見に行こう、行かないの応酬が始まったのを横目に、今度こそ落ち着いて頁の文字を追う。
うるさいなぁとは思うけれど、これが僕らの春の風物詩なのだから仕方がないよね。


さくらさけ!


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むぎちゃんが花粉症の三郎良い的なことを呟いていたので勝手にネタにしちゃいましたむぎちゃんごめんね!
もし既に花粉症三郎を執筆中とかだったら遠慮なく言ってくだされ…!

室町に花粉症という病気(?)はまだ無かったと思うので、鼻水の呪いにかかった三郎くんということになりました←


 


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