「こんな、急に、寒くなるなんて聞いてないよー!」

珍しく声にも態度にも感情を表し、文句と白い息を一緒に吐きながらマックスは嘆いた。そうだよなーと生返事をしながら、俺も白い息を両手に吐きかけ暖をとって、また学ランのポケットに突っ込んだ。

昨日まで続いていた秋の過ごしやすい暖かさはどこへやら。ぐんと下がった気温が、分厚い学ランの上からでも容赦なく凍てつく刃を向けてくる。寒さに気づいてクローゼットからカーディガンを慌てて引っ張り出してきたのは正解だな。
ふぅ、と息で遊ぶとさっきよりたくさん白い息が出た。そういえば、白い息が出るには気温が十度以下にならないといけない、と聞いたことがあるのを思い出した。そう考えるとよけいに寒くなる。ちょっと後悔しながら学ランの襟(足しにはならないかもしれないが)を口元まであげた。
隣のマックスはマックスで、面白いほどぶるぶる震えながら帽子のしっぽみたいなところをギュッと握っていた。そんなところ引っ張って、なにか寒さに対する抵抗になるのか?と思いながらも、なんとなく、分からないでもない。

「まだ冬服も手袋も冬用の帽子もコタツも、毛布すら出してないのにさ」
「ま、寒くなってみないとなかなかタンスの中って整理できないからちょうどいいんじゃねぇの?」
「ぜんぜん良くない!……ああ家に帰りたい、帰ってコタツでぬくぬくしたいよ……」

猫はコタツで丸くなる、あの童謡の一節を思い出してちょっと笑いそうになるのを堪えた。丸まっているマックスを想像したら、すごく似合っていておかしい。
学ランに指をかけて気持ち上の方へ持ち上げて、マックスから口元が見えないように取り繕った。

「はんだ」

呼ばれてギクリと立ち止まる。……笑ったのがバレたか?
と内心焦っていると、マックスは口元とは全然違うところを見ていて、学ランのポケットに入れた俺の手を腕を引いて引っ張り出した。

「えっ?ちょっ、なに?」
「やっぱり半田の手、超あったかーい!とけるー!」

両手で俺の右手を掴んで、自分の冷たくなった指先や甲を俺の手のひらに押しつける。と思ったら今度は指を絡ませて繋がれた。俺は意味がわからなくて、されるがままだ。
ポケットに入れっぱなしだった右手が外気をあびて冷たさに震える。ようやくその冷たさに目が覚めた俺が、さむいから離せと抗議すれば、繋がれたままマックスの学ランのポケットに入れられた。いや、そういうことじゃなくて!

「ねえねえ、学校まで繋いでていい?ていうかこの温もりまで失ったら僕凍死するから、してやるから」
「後半がほとんど脅しじゃねえか…!」
「ああ、あったかいって本当幸せだねぇ。人肌さいこう!半田もそう思うだろ?」

人の話しなんてこれっぽっちも聞かないで、マックスは頼りない緩んだ笑顔で肩に擦りよってくる。ご機嫌らしく鼻歌を歌いながらさっきより足取り軽く歩き始めた。

「俺、は……」

朝っぱらから、登校中に、男同士で、恋人繋ぎしながら、ポケットに手をいれて、うかれながら歩いてる。社会的にも教育的にもよくない。……というか恥ずかしすぎる。

「あったかいココア飲んでたほうがマシ」

そう素っ気なく言っても、俺は手をほどいたりしなかった。


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