二人のサンタ

着慣れぬ布地の感触に首元を痒きながら問題が並ぶ紙面へシャーペンを走らせる。最後の問を解き終え、やっと終わったと息を吐いた瞬間ドアの開く音に気付き手元の帽子を頭に被って玄関先へ迎えに出た。声を掛けると帰宅の挨拶をして俺の姿を見た先輩は、目を見開き固まる。おぉ、吃驚している。
愉快な気分になりながら本日限定の挨拶を口にした。


「メリークリスマスです。先輩」

「……何だその格好は」

「隊長さんが用意していらし、……していたみたいなので着てみました」

「……あの馬鹿は」


溜め息を吐く先輩に苦笑して頬を掻く。今、俺が着ているのは赤地に白い縁とボンボンが付いた服と帽子。この時期街角で沢山目にするサンタの格好をしていた。
『これ着て出迎えてね☆』というメモ書きと共にテーブルの上に置かれていたこのサンタセット。名前は書いていなかったが準備したのは隊長さんで間違いないだろう。こういうイベント事好きそうだし。
俺の言葉に呆れながらも納得した先輩はその後不思議そうな顔をして首を傾げた。


「何で下は黒いんだ?」

「あー……。隊長さん、ズボンを入れ忘れてたみたいで無かったんですよ。でも俺代わりになるような赤いズボン持っていなくて」


サイズが大きめなのかだいぶ丈の長いサンタ服の裾を摘まんで唸る。ジャケットやらベルトやらは店先に並ぶフェルト地の安っぽい代物とはかけ離れたかなり質の良さそうな物。自分が着て良いのかと悩んだけれどツリーやらなんやら飾り付けまでされた部屋に隊長さんのやる気を感じ、着るくらいならと袖を通したのだが。まるで本物用に誂えたかのような服には何故かズボンだけが抜けていた。
隊長さんに連絡を取ろうとしたのだが繋がらず、仕方無く一度自室へ戻り組み合わせ的に無難だった黒の綿パンを着用する事になったのだ。


「制服の履いてクリスマスカラーでも面白いかと思ったんですけどね」

「それは最早サンタでは無いな」

「あははっ。ですよね」


濃緑の制服の下ならば赤白緑と見事にクリスマスのイメージカラーで揃う。が、あまりにもちぐはぐ過ぎて受け狙いにしても変だと止めた。想像したのか微妙な顔をした先輩に吹き出す。そうして笑いながら、でも、と話を切り出した。


「サンタの格好しましたけど、これ見るまでクリスマスっていう事忘れていてプレゼント用意してないんですよね」

「あぁ、そんな事気にするな。俺もそうだし」


眉を下げて謝ると笑って首を振られた。しかし折角隊長さんが準備してくれたのに勿体無い。残念に思っているとクリスマスか、と呟いた先輩がふと俺を見た。


「何か欲しい物はあるか?」

「先輩、それ俺の台詞じゃなかで、……ないですか?」


サンタは俺ですよ?と言うとニッと口の端を上げた先輩は俺の頭に手を伸ばしてきた。なんだと構える前に頭に乗っていた重みが消える。


「それで?」

「……えー?」


奪った帽子を被りポンポンをピンと跳ねて先輩は笑う。呆れ顔を向けるが逆に楽しそうな顔をされた。その様子に仕方無く頭を巡らせる。うぅん、と少しばかり悩んでから思い付いた切なる願いをボソリと口にした。


「……平和?」

「……あぁ」


サンタには叶えようもない願いに先輩が遠い目をしながら苦笑する。それが欲しいのは先輩もだよなと思いながらも訊ね返した。


「先輩は何か欲しい物ありませんか?」

「……欲しい物か」


顎に手を当て考える先輩をじっと見上げる。クリスマスには間に合わずともこんな日に遅くまで頑張っている先輩の望みは出来るだけ叶えたい。あんまり高価なのは無理だけど。
……でも先輩金持ちだから所持品の水準確実に高いよな。ヤバイ、こんな事言っといて何もやれないかも、と焦り始めた俺を前に先輩はふ、と笑った。


「もう貰ったかな」


ポンポンと頭を撫でるよう叩く先輩に首を傾げる。


「何も上げてませんよ?」

「あぁ。物じゃないからな」

「?」


瞬き何を上げたかと訊ねるが俺の頭を一頻り撫でた先輩は満足そうに頷き席に着く。眉を顰め考えるが分からず、釈然としないまま料理を温め直しに台所へ向かった。


普段通りに食事を囲みながら穏やかな時間にほっと息を吐く。ここに居る時はどこまでも平和だなぁ、と思った所であぁ俺も先輩からプレゼント貰っていたんだなという考えが胸にストンと落ち笑う。それに気付いた先輩が不思議そうにしているのを見ながら新しい小皿を差し出した。





二人のサンタ




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