ポッキーゲーム

「……何やってんの?」

「……かえり」

「あ、おかえりなさい」

「おっかえりぃ!」

「「…………」」


放課後、担任に呼び出された俺を教室で待ってくれてた友人達に対して開いた口は、お礼よりも先に疑問の言葉を吐き出した。
俺の席に集まって菓子食ってだべっているのは良い。俺のを勝手に開けて食っているのはこの際目を瞑ろう。それよりも言わなければならない事がある。

待っていてくれた友人の名前は取り敢えず喋った順にぼんやり、素直、お調子者、でか、ちびってとこにしとこう。……名前を覚えるのが苦手なんだ。んで、その内最後の黙っていた二人。でかとちびの体勢について激しくツッコミを入れたい。


「……ただいま。で、何してんの?」

「……ポッキーゲーム」

「……何で?」


最初の疑問にはいつもぼんやりしてる奴が答えてくれた。成る程、よく見れば顔の近い二人の間には一本のポッキー。喋らないんじゃなくて喋れなかったのか。そうか。……いや、そこもすげぇ驚いたけど、何でそんな事をしているのか。そしてそれ以上に気になる事があるんだが。


「かわいこちゃんの『ポッキーゲームってな〜に?』という疑問にお答えすべく、百聞は一見に如かずの言葉にのっとって実践ちゅ……ぶっ」

「う・ざ・い。てかそれよりなによりさ。なんで膝に乗っけてんの?」


お調子者がこれまた調子に乗った喋り口調で説明するがなんかイラッとしたのでデコピンを食らわせる。かわいこちゃんとはさっきから困ったように手を右往左往させてる素直な性質をした奴の事か。いや、だからそれはどうでもいい。
そう、顔の近さにもそりゃもうかなり驚いたのだけれど、でかい方がちびの方を膝に乗せている事になにより驚いた。

高校男子平均以上と以下ぶっちぎりな感じで体格差の激しいこの二人。顔を合わせれば睨みあい、口を開けば喧嘩するというクラスでも呆れられている程仲が悪いのだ。席が近いからという事で必然的に俺や素直の奴が宥めたりする羽目になるのだが、それで辛うじて平穏を保っているという感じ。そんな険悪な仲なのにお互い態々絡んで行くから意味分からないし激しく迷惑なのだけど。
そんな二人が膝に抱っこでポッキーゲーム。どんな天変地異の前触れか。


「フツーにやるには背丈合わないじゃん。この二人じゃ」


デコピンを食らった額を撫でながらお調子者が言う。確かにクラス一でかい奴とクラス一小さい奴なので、この二人じゃやりづらいだろう。


「じゃぁ、なんでこの二人にさせたの」

「……じゃんけん」

「ポッキーゲームは罰ゲームでやるものだ……って」


あぁ、このニヤニヤとしているお調子者の悪ノリに全員巻き込まれたって事か。
ぼんやりしてる奴は、自分じゃなくて良かったというのが顔にありありと浮かんでいる。素直な方は二人の今の状況を見て大体の内容がは分かったようで気まずそうな顔をしている。そして被害にあった二人は、とてつもなく険しい顔で向かい合っていた。背後になんか黒いものが渦巻いてそうな勢いである。


「……動けや」

「うるせぇ……。てめえが動けし」


喋りにくそうにしながらもお互い睨み合いながら器用に悪態を付く二人。折った方が負けになるなら自分は動かない方がまだマシだもんなぁ。折れそうだし唇当たりそうだし。見ているこっちもハラハラする。しかしこのままじゃいつまで経っても決着がつかない。

そもそも、負けず嫌いのこの二人に見本をやらせるのが間違いだと思う。素直な奴がもう止めていいと何度も言っているが口を離した方が負けとなれば意地でも動けないようで。これじゃあ帰れない。
ぼんやりの奴がぶはぁっと溜め息を吐いている。俺も同じ様に溜め息を吐いたがお調子者だけは違うテンションだったようで、身をくねらせながら楽しそうに口を開いた。


「いや〜ん。膝の上に乗って乗らせて『動け』だなんてひ……デブッ」


ゴッ


という鈍い音と共に床に這いつくばった。近くには俺の置き勉していた英和辞書と古語辞典が。……俺の!汚れてないみたいだからいいけど!

顔面を押さえて呻くアホはほっといてまた二人へ視線を戻す。
いい加減、帰りたい。
帰りにゲーセンに行くんじゃなかったっけ、と欠伸をし始めたぼんやり野郎と話せば今日は無理じゃね、と返された。えー。


「……分かった。オレが食うからお前は途中で折って負けろ」

「は?なんで。お前が負けろや」


アホを沈めてからまた無言でギリギリ見詰め合っていた二人に漸く動きが。と思われたが結局負けたくないが為に話は平行線で。ぶつぶつと先程とあまり変わらない言い合いが始まるのをまた呆れて見物していれば、元より長くない二人の気も切れてしまったようで目が据わってきた。そろそろどうにか強制終了させるかと声を掛けようとしたその時。


「……ッあ゛ー、もう、めんよふへぇ!」

「ふぇっ?」

「「「あ」」」


ガチッ


「「――――っ!!」」

「「「……あー」」」




「ん?何何なにナニ!何があったの!?」

「……しらね」

「だ、大丈夫?」

「あーっはっは〜」


口を抑え、痛みに悶絶する二人。
まぁ、あれだ。でかい方がキレて胸ぐら掴んで引寄せたら勢い余って歯同士がぶち当たったんだ。かなり勢いが良かったからそうとう痛いだろう。

アホが何があったかしつこく聞いてくるが、流石に言うのは可哀相かと無視する。
二人には悪いがしかし、これで漸く帰れると荷物を手に取りぼんやりと素直な二人を促して立ち上がる。

もう一度でかちびの二人を見てみると、まだ口を押さえて呻いていた。さーどうしたもんかと言葉を選んでいれば涙で濡れた二対の目がこちらをギッと睨みつけた。


「「折ったの、どっち(だ)」」

「……しらん」


……まだそんな事を言うのか。まだ勝負に拘る二人。ある意味すげぇよ。

おろおろする素直な奴の頭をポンポンと叩き、付き合いきれるかと俺と素直な奴を引っ張って帰ろうとするぼんやり野郎の手をやんわり落し、写メを撮ろうとニヤつくアホに蹴りを入れて喧嘩を始めた二人に近寄る。


痛みなのか怒りなのかはたまたそれ以外なのかはしらんが、顔どころか耳から首までも真っ赤に染まった状態で言い争う二人の頭に拾い上げた辞書を軽く振りおろした。





ポッキーゲーム

照れ隠しに時間をかけすぎだ



「で?で?マジでなにがあったのさ!」
「事故チュー」
「「キスじゃねぇ!」」
「……はぁ」
「あぅう……」









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