紅葉の季節
束ねた髪を上げられ、後ろから首筋に吸い付かれた。チュウッという音と濡れた感触、あと少しの痛み。ちらりと見ると先輩がつまらなそうな顔でこっちを見ていた。
「動じないね」
「私に妙な期待しないでくださいませんか?ていうか近いですよ」
放課後の美術室。
顧問が自由人な美術部は、部員もそれはもう自由人で。活動は好き勝手やっている。今日は校内スケッチだー、と言った部長に殆どの部員が珍しくノったらしく。ノらなかった先輩と遅れてきた私だけが二人、部室にいる。そんな状況でのこの奇行。変な先輩はどんな時も変らしい。
「キャーとか言うとでも?」
「まぁ想像つかないけど」
少しくらいねぇ、と溜め息を吐く姿にちょっとイラッとした。クルリと向き合い一旦睨み上げて目を閉じ小さく深呼吸。
「キャー何するんですかぁ、先輩のエッチ!」
「…………」
高めの声でギャルっぽい喋りを意識。ついでにシナを作り近くにあった肩を押し退けた。我ながら気色悪い。
さて反応は、と先輩を見ると、目を見開いて固まっていた。折角期待に応えてやったというのに何よそのリアクション。
「……ほら、気持ち悪いだけでしょう」
大きく溜め息を吐いて離れる。ていうか、普通にさっきのはセクハラですよね。訴えるか?取り敢えず部長辺りにでも抗議しとこうか。いや、それよりも張り手をかましていればストレス発散にもなったか。今からでも遅くはないかしら。
なんて考えながら手にしていた筆をパレットに置く。やるなら利き手と逆にしなきゃねぇ、と左手をプラプラさせているといつの間にか俯いていた先輩がぼそりと何か喋る。
「ごめん、なんか結構キタ」
「は?」
言われたセリフが理解できずに思わず聞き返す。……聞き返さなければ良かった。
「『キャー』って言って『エッチ』とか、かわいくね」
「……ほんと、男の人ってぶりっ子好きなんですねぇ」
呆れた顔を隠しもせずねめつけるけれど、それはもう、楽しそうにもう一回とねだられる。それににこりと笑顔を向け、右手を思いっきり振りかぶり、盛大な音を立てて先輩の頬に真っ赤な花を咲かせた。
紅葉の季節
部長〜、先輩が変態です。
治らないから諦めて。
ちょっ、ひどくない?