氷菓の彩り

上天は見上げれば落ちてしまいそうなほど深く、普段は白む山の際まで青く透け抜けた空の下。課外を終え下校途中の俺と友人は木陰で一休み。影とはいえ風が生温い状況ではただ汗が吹き出すばかりだ。しかしジリジリと地を焼く太陽に照らされるのは嫌だし暑さで動くのがだるい。
だらだらとこれまた温くなったジュースを飲んで草の上に寝転がり目を閉じる。頭の下に通学バッグを敷いたが中身は教科書とかだから固いし頭の座りが悪い。適当な場所を探してゴロゴロ頭を動かし、結局退かして腕を組んで頭を乗せた。


「……かぶりつきたい」

「…………あー」


隣の友人が突然奇妙な事を言い出して頭でもやられたかと一瞬疑う。そうして目を開いた先に見えたのはハッキリと形作られ湧き上がる入道雲。白く浮かぶそれは成る程、まるで冷たいかき氷のようだ。イチゴかオレンジか、ブルーハワイもいいが青空の中だともっと鮮やかなシロップをかけてみたくなる。でもどっちかっていうと雲は綿飴なイメージが強い。なら夕方の雲の方が良いな。オレンジとかグレープ味っぽくて。

何て屋台物の事を考えていたら今日祭りがある事を思い出した。行こう行こう。出来れば女の子とがいいけど誘えるような相手いない。仕方無いからコイツとでいいや。射的とかで遊ぼう。無駄に顔のいいコイツは女の子に誘われてるかもしれんが知るか。彼女はいない筈だけど、今回の切っ掛けにできたとかなったらムカつくから無理矢理でも引き摺り倒す。僻み上等。


「ホント、白くて良いな……」

「んー」

「赤いの、スゴく映えそう」

「あー」


コイツの想像はやっぱりそのままかき氷だったか。んで、イチゴかー。定番だね。
夢見心地な呟きに生返事で応えながら寝返りを打つ。丁度良い体勢を見つけ伸びをして息を吸い込んだ。そうしているとサァッと吹いた風が髪を撫で、暑さでぼんやりした空を薄目で見る。

うだる暑さを知らずにのびる雲の筋。潰した草の匂い。遠くの川のせせらぎ。暑くて嫌になるけど、嫌いじゃない真夏の風景。

何とはなしに眺めながらぼけっとしていたら横に寝ていた友人が体を起こした。横目で見ると座ったまま俺を見下ろしている。


「どしたー」

「食べて良いかな」

「……いーんじゃない?」


やっぱり頭おかしくなってたか。目が座っている。勉強浸けなこの夏休み、キツい暑さでしっかり者なコイツもとうとう壊れたか。なんてこちらも壊れかけの頭で考える。空に浮かぶものを食えるわけがない。食えるもんなら食ってみろ。
相手をするのも面倒で。そんな適当な返事をして元の体勢に寝返りを打つ。汗が肌を伝って気持ち悪い。そろそろ移動した方がいいかもな、なんて考えているとカサッと草の擦れる音が近くでして疑問が浮かぶ。友人が近付いたのかと目を開けようとして、急に走った首への痛みに飛び起きた。


「い゙っ!?な、何!?なんだ!?」

「……しょっぱ」

「……いや、だから。何やってんだって」


傍らには思った通り友人が。しかし近くに来た、というのは予想通りでも、行動は全く予想外だったぞ。いきなり噛み付くとか何考えてやがる。
そう、思いっきり怒るつもりだったのだが。口を押さえて思案気に首を傾げるソイツに脱力して、力無く訊ねる。


「んー。白くて美味そうだなと」

「……何が」

「お前の首」

「…………で?」

「しょっぱかった。後ぬるかった」

「だろーよ」

「でもまぁ、良い感じ」

「……はぁ?」


うん。おかしくなってんなコイツ。普段勉強やら部活やらなんでもこなして頼られるコイツも暑さには負けるのか。
珍しくも未だボヤッとしつつ、何か満足げなソイツの額を軽く叩いて立ち上がる。もういいや。おかしくなった奴に怒っても意味無いし。何か奢らせる事でチャラにしてやろう。俺ってやっさしー。
夜の祭りに誘いながら、近くはないファーストフード店で休むぞと鞄を取り上げた。











祭り賑わう神社の通り。奢らせた綿飴を食べながらかき氷をつつく友人と行列を眺める。かき氷に比べて綿飴って選択肢ほぼ無いよな、という理不尽さを語っていると何人かのクラスメイトが手を振って近付いてきた。と、思ったら。目の前に来た瞬間突然首を指差されて冷やかされる。何事かと頭を捻って、思い至った答えに横で涼しい顔をした友人の頭を殴り付けた。





氷菓の彩り


「何付けてくれとんじゃー!」
「あっはっは」
「あっはっは、じゃねー!」
「仲いーな」
「なー」









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