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前を走る人はいない。
周りの歓声も聞こえない。
自分の走る音だけが、やたら大きく感じる。
手足はもう、動かそうと思わなくても自然と動いているようだった。

先頭のまま、半分を通過しようとしたそのとき、

「っ!!!」

足に何かがぶつかる感覚。
「あ、」と思った時には既に前につんのめり、そのまま地面に倒れていた。
両膝、特に右膝に感じる鋭い痛み。
一瞬のうちに分かったことは、すぐ後ろを走っていた子の足がぶつかったんだということと、
倒れた私の横を後続の何人かが抜かしていったということ。
私は瞬時に起き上がり、再び走り出した。
前を走っているのは四人。

「(抜かせる、まだ…!!)」

一番近くにいた一人を抜き、その次を並んで走る二人との距離を詰める。

「(一位で、繋ぎたい…!)」

コーナーを過ぎたところで二人を一気に抜かし、先頭のすぐ後ろにつける。
正面には、第三走者たちが待ち構えていた。
でも、私の視界にうつるのは、ただ一人だけ。

「(知念くん!!)」

私は、知念くんめがけて、ただひたすらに走った。
テイクオーバーゾーンに入ると、知念くんが右手を差し出しながら軽く走り出すのが見えた。
彼との距離が、どんどん縮まっていく。

知念くんの手が、私の持つバトンをとらえた。
そして…


***

ミョウジさんの倒れる姿に、一瞬息が止まった。
怪我してなお走る彼女の姿に、胸が苦しくなる。
右手に感じる、バトンの感触。
そして…


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