舳丸さんが現れてからまだ日の浅いある晩。仕事から帰ると、彼は電気のひとつも付けないまま、真っ暗な部屋でひとり夜空を見上げていた。カーテンの隙間の向こうに広がる空に月はなく、いつもより星がよく見える。隣に並んで座り、黙って一緒に外を眺めていると、やがて舳丸さんはゆっくりと口を開いた。
「ここは、星の光が遠いのですね」
街の明かりが強いから星の光が遮られるのだと教えると、そうですか、と言ったきり、彼は何も言わなかった。 それ以降、彼が星を眺めているのを見たことはない。
「あなたを愛おしく思うことは、許されるでしょうか」
背後から繋がったまま、逞しい両腕で私の体をしっかりと抱きしめて、舳丸さんは呟いた。目を丸くして振り返った先には、燃えるような赤と、熱を帯びた鋭い視線。
「舳丸、さん…?」 「あなたの心の内を聞かせてほしい……ナマエさん」
問われた言葉の意味が瞬時に理解できずに困惑する私から一瞬たりとも目を逸らさずに、舳丸さんはなおも言葉を続けた。
お互いに対する気持ちを口にしたことなど、これまで一度もなかった。なぜなら、私たちは理解しているから。今のこの現状はいっときの夢であって、いつか別れを告げなければならない日が来るのだということを。 舳丸さんの帰る方法は、依然として分からない。それでも私は、彼がずっとこの時代にいることはないだろうと感じている。これは直感だけれど、舳丸さんも同じように感じているだろう。 それなのに。
「わ、たし……」
目を逸らし、言葉に詰まって何も言えなくなった私を見て、舳丸さんは抱きしめる腕にぐっと力を込めた。そして、唐突に腰の律動を開始した。しかもそれは、いつものようなゆったりと甘く優しいものではなく、ただただ欲に身を任せたような激しいもので。
「えっ?!やっ、あ!みよっ、まって…!!」 「っ、待ちません」
はっはっ、と短く吐かれる彼の息が、耳に当たってこそばゆい。腰を打ち付けられるたびに聞こえるのは、互いの皮膚がぶつかる音と、ぐちゅぐちゅと生々しい水音。 舳丸さんは腰の動きは緩めないまま、お腹に回していた右手をすっと下に伸ばした。茂みの奥の秘豆を指先で擦られ転がされる。あまりの快感に、腕を突っ張って体を起こそうとしていた私の全身から力が抜け、ぼすりとベッドに沈んだ。それでもなお、舳丸さんは腰と指の動きを止めない。私がこうされるのが好きなのを、舳丸さんは知っている。全部、彼に知られている。
「あぁ、っ!は、やぁ…んあぁっ!!」 「っ、く……はっ」
ビクビクと痙攣しながら達してしまい、そのとき思わず中を締め付けてしまったのか、舳丸さんが少し苦しげな声を漏らした。彼の額から流れた汗が、私の首筋に落ちる。たったそれだけの刺激にも、過敏に反応してしまう。 依然として腰と指の動きを止めないまま、舳丸さんは私の耳元に口を寄せた。
「ナマエさん、こうされるの、好きですよね」 「っあ、うん…すき…っ!」 「じゃあ、これは」
一旦彼のものが引き抜かれ、素早く横向きにさせられると、体を起こした舳丸さんが私の片脚を大きく上に上げ、自身の肩にかけた。そして再び、彼のものが入ってくる。間髪入れずに律動が再開されると、今度は同時に胸を揉みしだかれ、その頂をくすぐられる。
「これは、好きですか?」 「あっん、ぁっ…すきぃ…!」
思考がぐずぐずに溶かされていく。あまりの快感に溢れた涙で歪んだ視界に、頬を上気させて私を見つめる舳丸さんの姿があった。
「じゃあ…私のことは…?」
もう、どうなってもいい。
「すき…すきなの…っ!!」
私の返答を聞くなり、舳丸さんは肩に乗せていた私の脚を下ろし、片手を私の手と繋いでベッドに縫い付け、もう一方の手で私の後頭部を押さえ、勢いのままに口付けた。呼吸さえも奪われてしまいそうな激しいキスに応える。苦しくなって声を漏らすと、漸く彼の顔が離れた。 もっと奥へというように腰を押し付けられ、彼の熱く硬い切っ先が奥に当たっているのを感じる。
「ナマエ、ナマエ…!!」
今にも泣き出しそうな、縋るような表情で私の名前を呼ぶ舳丸さんが愛おしくて。苦しくて。 汗ばんだ背に腕を回し必死にしがみ付くと、舳丸さんは私の首筋に顔を押し付け、苦しげに声を漏らした。彼の名前を呼び、一段と激しい律動を受け止めたその直後、全身を駆け巡る快感に頭の中が真っ白になった。
夢を見た。 真夜中の砂浜。これまで見たこともないような、満天の星空を眺めている。隣に、舳丸さんが並んで座っている。砂の上で、手を繋いで。彼は微笑んでいた。思わず私も、頬が緩んだ。 この夢が現実になってくれたら、どれほど幸せだろう。薄闇の中、彼の温もりを感じながら、私は再び目を閉じた。
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