ゆっくりと浮上する意識。 カーテンの隙間からわずかに差し込む淡い光。 どうやらだいぶ早い時間に目が覚めてしまったようだ。 「明日はお前も休みだろう」と、熱い眼差しで迫る彼を受け入れたのは昨夜のこと。 あれほど激しく求めあったというのに、こんな早くに目が覚めるとは…老けたのだろうか。 まだそんな歳ではないはずと自分に言い聞かせつつ、ベッドから降りようと上半身を起こす。 その瞬間、背後から伸びてきた手に肩を捕まれベッドに逆戻り。 その手はそのまま後ろから私をきつく抱きしめた。
「…どこへ行く」 「え、ちょっと水でも飲もうかと…」
そう言い終えるや否や、寝室の扉がひとりでに開き、水の入ったコップが砂によって運ばれてきた。 なんという早業。
「あのねえ…わざわざ砂使わなくたって」 「だめだ」
私の言葉をぴしゃりと遮った我愛羅は、後ろから私をしっかりと抱きしめたまま、うなじに頬をぐりぐりと押し付けてきた。 運ばれてきたコップはいつの間にやらサイドテーブルに置かれており、砂はすでに跡形もなく消えている。
「俺から、離れるな…」
不安と切なさを含んだ声色に、何も言い返せなくなる。 キッチンに行くだけなのに大げさな…とは思うものの、彼の過去のことを考えるとその訴えを無下にできなくなってしまう。 人前では常にクールに振舞う彼が、今でも時々、孤独に対する恐怖と戦っていることを、私は知っている。 こうして二人きりのとき、泣きそうな声で「一人にしないで」と訴える我愛羅を、私は知っている。 私だけに見せてくれる、彼の素顔の一面。
「大丈夫、我愛羅を一人にはしないよ」
そう言って、私の胸の前に回された彼の腕をゆっくりさすると、抱きしめる力はわずかに強まり、さらに両足も彼のそれによってゆっくりと絡め取られる。 うなじに柔らかい唇が触れ、聞こえたのはつぶやくような彼の声。
「お前は、どこへも行くな……」
よしよし、と子どもをあやすような気持ちで腕をさすりながら、私の頭の中には、さてどうやって水を飲もうかという考えが浮かんでは消えていた。
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