治らずの恋 | ナノ
風がやんだ。
縁側に座り、ひとり黙々と酒を煽る男の背を軽く蹴ってやると、ようやく俺の存在に気づいて振り返った。
月明かりに照らされる金色の髪が少し赤い瞳にかかっていて、仄かに影を落としているように見える。
「ご挨拶だな」
「酒なんざ持ち込みやがって」
「水とそう変わらん」
言って、薄く微笑みを湛えたままもう一度煽る。
頬は朱くない。
「敵さんの癖に堂々としてやがる。隊士に見つかったらどうすんだ」
「俺が人間如きにどうにかされると思うのか。返り討ちに決まっている」
「だから言ってんだ馬鹿野郎」
縁側に腰を下ろせばひやりと冷えていた。
真っ白い裸足の爪先を浮かせたまま隣の男を伺う。
「寒いか?」
のぞき込むように視線を合わせて、俺の腰をぐっと掴んで引き寄せる。
そうして熱を分けながら、瞳はまた庭の木に戻った。
散った梅が、気になって仕方ないらしい。
伊吹を潜めて、静かに佇んでいる。
鮮やかな花は散り、死の空気を薄く纏ったまま。

「何見てんだ、お前?梅なんてとうに散った」

胸の底が騒いでいる。
ここのところそれが煩くて仕方ねえ。

「その代わりに、桜が咲いている。此処ではないどこかでな」
梅の命を吸って、桜は咲くのかも知れん
つまらない戯れ言にも俺は耳を傾けていた。

じわじわと、浸食されていたことに気が付いている。
追い返すどころかこうして温もりを分け合うようになってしまっては。

そう眺めたことはない綺麗な指が俺の髪を梳いている。
心地よくて目を細めて。
「来年になればまた咲くさ。今からこんな話をするなんざ、気が早えだろ」
「何故そう決め付ける?」
俺は少し驚いて、風間を見た。
「咲くだろ?」
「咲かぬかもしれぬ」
俺はなんとなく気づいた。
「…」
こいつに二度とここに来る気がないことに。
赤い瞳を見るために、風間の頬をがっちり掴んで笑ってやった。
「何だ」
「嫌だって思っちまったよ」
訝しげな顔に告げると、見たことの無いような優しい微笑みを浮かべられて、赤くなった頬を隠すために唇を合わせた。



ああ、胸が騒ぐ。
お前が全てを断ち切ったような顔で笑っても、俺はこれを持て余したままでいる。

遠くから、足音がして。
「土方さん」
ひょっこりと総司が顔をだした。
「どうした」
「へえ。お酒呑んでたんですか?珍しい」
「…ああ」
花の散った梅を見ながら、答えた。
「それもひとりで」
含みのある言い方をして徳利をつまみ上げた総司は、中身を確かめるように匂いをかいだ。
咽せたフリで小さな咳をした。





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