※学パロ




虐められっ子は虐めっ子に育つというのは根拠のない噂話ではなく案外それなりの統計に基づいたものではないかと僕は思う。
何故なら加虐趣味…と言うと聞こえが悪いが、愛故に相手の怖がる顔や驚く顔を見るのが楽しくて楽しくて仕方ない僕は信じて貰えないかも知れないけれど昔はそう、所謂虐められっ子だった。
近藤さんの道場に入ったばかりの頃、最年少でまだ体も小さい僕は恰好の餌食だった。
彼ら全員を打ちのめした時、恐らく僕は虐めっ子に転身したのだろう。
今思い出してもザマーミロって思う。

「何してんだ。」
透明なビー玉を通して見るあなたは逆さまでちょっと歪んでいる。
準備室で煙草を吸うあなたの視線は一度こっちを見て直ぐに窓の外へ戻ってしまった。
「どっちが本物だと思います?直接見るあなたとビー玉を越しのあなた。」
逆さまのことばかり言うから僕は後者だと思っている。
逆さまのあなたを逆さまに映せば真実になるでしょう。
「どっちも本当だろ。見ているもんは同じだ。」
「…そっか。」
「にしてもよくそんなもん持ってたな。」
「出て来たんです。子供の頃の宝箱の中から。」
あなたは今でも子供のくせに、とか言う。子供扱いするのに子供のままでいさせてくれないのは世界の方だ。僕はまだ子供でいたい。
「さぞ小憎らしい餓鬼だったんだろうよ。」
「そんなことないですよ。とってもピュアで可愛かったんです。だから宝箱にこんなのが残ってた。」

でもただのビー玉じゃ宝箱入りはしなかった。

あれは例に洩れず道場の先輩達にこっぴどく虐められた日。
いつかボッコボコに叩きのめす日がくるから精々首を洗って待ってろ雑魚共、と内心で罵りながらも日の暮れた人気の無い公園で一人泣いていた。
そこに見知らぬお兄さんがやって来た。
内容はよく覚えていないけど、男が簡単に泣くなとかそういう今思えば随分ありきたりなことを言って、泣きやめとこのビー玉を渡してきたのだ。
当時の僕にはそのお兄さんが凄くかっこよく見えて、一人勝手に憧れた。

「そういや俺もビー玉なんてもんを貰ったことがあったな。近所のチビに。」
「へえ。」
「私のお婿さんになってねって言って渡された。」
「え!?困りますよ!先生は僕のものですから!」
「一体いつてめえのもんになったんだ。教師口説くんじゃねえ。」
「口説かれてる自覚はあったんですね。」
「…。」
黙りこんでしまったあなたに、その子の話を乞えば話を逸らすためか渋々口を開いた。
「今はすっかり美人になっちまったが、あの頃は可愛かった。今でも可愛いが歳の差がなあ。」
「先生もうおっさんですもんね。」
「おっさん…」
しゅん、と肩を落とした。
今日の彼はなんだかいつにも増して可愛い。
「安心してください。売れ残る前に僕が貰ってあげますから。」
「あ、そういや。」
「…。」
「そのビー玉。嫁入りした姉さんの家に行く途中に公園でぴーぴー泣いてる童がいてな。そいつにあげちまった。」
「…え。」
「ちっこくて、ひょろひょろした奴だ。それが素直な奴でな、てめえとは大違いだった。」
「僕も昔は素直でした。」
「嘘つけ。」
「本当ですよー」
「そうかよ。…なんだ。」
僕が渡した掌の上のビー玉をしげしげと見つめる。
そんな彼に向かって頭を下げた。
「僕のお嫁さんになって下さい。」
また怒るんだろうなあ、と飛んでくるはずの参考書を避ける為に顔を上げる。
「…っ、」
「…あれ?」
真っ白だった頬を赤く染めて、岩のように硬直している。
「せんせ…」
「訳わかんねえこと言ってんじゃねえぞ!馬鹿野郎!」
「いや顔真っ赤…」
「赤くねえ!」
「そうですか。」


近所のおチビさんに負けないように、僕は指輪でも贈ろうか。






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