なんか書いてた夢なりそこない
2013/10/23 04:31





「…うーむ」

じとり、目の前のモニターに鎮座する一文を睨みつける。飄々としたそいつは、私が睨みつけているのにも屈せず、ただひたすらに私へと事実を突きつけるのだった。

『エラー:frameを解決できません』

「ああもうわけわからん」

軽く溜息をついて深く背もたれに沈み込む。まったく!さっきから何回エラーを直せば気が済むというんだ、このプログラムは。一つを直したらその次、また一つ直せばさらにもう一つ…繰り返し繰り返し現れるエラーの文字に、もうすっかり私はやる気をなくしていた。もしかしたら構成方法そのものが間違っているのかもしれない。

「もしそうなら最初からやり直しになるんだよなぁ…やだなあ」

既に、複雑に組み合わせたプログラムは真っ新な白紙に戻すには惜しすぎるほどの量となっていた。これを最初から組み直すとなると、どれだけの時間と労力になることやら…なんて、そんなことを考えるだけで私の目は半目になる。ああ、これやだ。だるい。考えるのが面倒になってきた。デュエルしたすぎる。
ふと周りを見回すと、同じ課題を出されているクラスメイトたちもどうやら苦戦しているらしく、辺りにはどんよりとした空気が漂っている。先生は用事があるとかで席を離れてしまったし、もう真面目にパソコンへと向かい合っている人間も少なそうだ。

「でもやらないと終わらないっていう。あーくっそ!どこを直せばうまくいくんだこれ」

悪態をつきながらも前のめりになり、改めてモニターを見つめ直す。文字の羅列に頭を痛めながらも、ひとつひとつの動作を確認していた、そのとき。
ガラリ、開いたドアから淀んだ空気が一掃されるような声が届いた。

「ここか?」
「そうです、どうぞどうぞ」

聞き慣れた先生の声に導かれるように一人の人間が入ってくる。私を含め、教室の中で燻っていた教室の人間は全員水を得た魚のように乱入してきた人物を見つめた。
特徴的な髪型に、紺色の上着。技術者なのだろうか、手を保護する手袋に…。いや、いやいや。

「…キング」

ぽつりと呟いた声が、聞こえたのかどうなのか。教室に入ってきた男はぐるりと辺りを見回すと、低く落ち着いた声で話し始める。

「俺の名前は不動遊星だ。お前たちの担任に、どうしてもと言われたのでTAとして来た。役に立てるかはわからないが…よろしく」

「うおおおぉ!!」という男子たちの声が教室に響く。それもそうだろう、不動遊星と言えばサテライトから現れ一気にニューキングへと上り詰めた、いわば伝説のような存在である。私としてもその男子の雄たけびに混じりたかったところではあるが、あまりの驚きに私の喉は何ら声を発することはなかった。いや、いやいやいや、だっておかしいでしょ。デュエルアカデミアでもないのになんで!?という私の疑問は、他でもないキング自身の説明によって簡単に解消された。どうも、キングは元から機械やこういったプログラミングには精通していたらしい。んん?ハイスペックか?
さっきまでのジメジメした空気はどこへやら、クラスメイトたちはこの教室に新たに混じることになった新顔を我先にと呼びつけている。男子にモテモテって、同じ男であるキングはどう感じているのだろうか…。何はともあれ、概ねはこの不動遊星を呼びつけたらしい担任の思惑通りとなったらしい。実際のところクラスメイトたちのやる気は急上昇で、課題のややこしさに沈んでいたのがまるで嘘のように教室中は活気付いている。
一方、私はというとキングの登場に騒ぎまくる男子に混じる気にもならず、かと言って誰かの教えなしに解き進められるほどの知力もなくただぼうっと画面を眺めていた。いたが、こんな教室の雰囲気にあてられて課題が進むわけもない。むしろ集中力と言う意味では先ほどよりも欠いてしまっていた。

(ああ、ニューキングかぁ)

いいなあ。声の大きい人間が得をするという構図は、どうやらここでも大差ないらしい。大勢の男子に囲まれてはレクチャーしているらしい不動遊星をぼんやりと目の端で見やって、私は猫背になりつつ投げ出していた右手で頬杖をついた。くそう。いいなぁ。私も話してみたいしあわよくばこの問題をどうにかして欲しい。そして、さらに言うならデュエルの話もしたい。
マスコミの取材を避けまくりほとんど姿を表さなかったニューキングと、ここまで近い距離でいられる機会などそうあるものではない。そうはわかっていても、どうしても周りの勢いに押されてしまうのだ。

まあ、いいか。たくさんの生徒に質問されて、さすがの不動遊星も手が回っていないらしい。少し離れた私の位置からでも若干困惑したようなキングの顔が見て取れた。自分を納得させられるような言葉が見つからないが、キングの手が空いていないのならどうしようもない。
うう、残念だなあ。男子の群れから目を離して、諦めて目の前の課題をどうにかしようと前に向き直る時、ほんの一瞬だけ。画面を指差して指示したり実際にキーボードを叩いていた不動遊星と、目が合った気がした。



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