化けの皮



社会不適合者。それは社会上都合の悪い人間を差別するためにある言葉だと俺は思う。70億人もいるんだ。それだけ人間がいれば少数であろうが、絶対にひねくれた考え方をする人間だって出てくるさ、そう___俺のように、な。

傷の舐め合いが好きな生徒と能天気な思考回路な教師ばかりで構築された人間が溢れかえる早乙女学園の中庭で俺は同じSクラスのクラスメイト一ノ瀬トキヤと対峙していた。なんでこうなったかの経緯はどうでもよかったので忘れたが、要するにトキヤは俺の考え方が気に入らないというか、俺自身が理解出来ないらしい。別に理解してくれとも言った覚えはないのに素晴らしい勘違い正義感と義務感である。気に入らなくて結構。つかまずその大層な御託を紡ぎ出す口に吐き気がするよね。

死にたいやつは死ねばいい。チームメイトだろうがなんだろうが足でまといはゴミでしかない。必要ない人間は切り捨てる。その考え方の何が悪い?現代の典型的な例で合理的じゃんか。

…ん?ああ。そうか。経緯、思い出した。俺ったらうっかり本音を洩らしちゃったんだわ。笑顔で毒を吐いた俺を目の当たりにしたあの時のトキヤの顔ったら今思い出しても最高に笑える。

「なあに?人気アイドルHAYATO様は早速カリスマ気取りか?」

ばれちゃったんなら今更トキヤの前ではキャラ作ったって無意味だよな。と、180度がらりと変化した俺の道化師みたいな雰囲気と態度に戸惑いながらもトキヤは語気を荒げた。

「違います。私はそういうつもりでアナタを呼び出した訳では…!」

本当に面白いよね。本性丸出しな俺に戸惑いながらも、ついこの間まで積み上げてきた俺のイイ人キャラをまだ信じようとしてる。なんだろ?何かと重ねてるのかな。だとすれば傍迷惑だ。

「いーや。違わないね。わかるだろ?お前にも他人に踏み込まれたくない領域だってあるし、目をつぶって見て見ぬフリして見てきたこともあんだろ?春歌チャンみたいにそこの兼ね合いが下手くそだとは思わなかったけど…そういう世界でお前は生きて行くんだろ?体験してきただろ?」

表立ってはいくらでも繕える。政治だって、社会だって、人間関係だって。もちろん俺だって、トキヤだって。そうして生きてる。それなのに。困ったものだ。ちょっと落ち込んでいたから円滑な人間関係を保つために偽善者ぶって安い言葉を並べたら、すぐこれだ。自分が差し伸べた手を取らなかったからって、価値観を押し付けるのはよくないだろ。第一、自分が差し伸べた手を取ったからって相手が必ずしも握り返すとは限らないのに。ホント、反吐が出るね。

「大嫌いなんだよ、この繊細で腐った世界が。でも好きなんだよ。この生ぬるい虚飾と悪循環だらけの世界が。なあ?お前もだろトキヤ。齷齪しながら生きてくこの世界、うまく出来てるよな」

音楽は世界を変える?馬鹿じゃねえの?現実はそれ程甘くない。いくら人間が生きていくためにハリボテの言葉が必要でも、声を大にして作った愛想振りまくのが生業の奴らに説かれるのは御免被るね。しかもそれがとんだ勘違いでお節介なら、不快でしょうがない。

「疲れるんだよお前らといると。つか、仲良しごっこなら他所でしてろ。」

歪んでる?それがどうした。わかってるよそんなこと。もういい加減疲れたんだ。他人とのくだらない友情ごっこに付き合うのは。だから___俺は最大級の蔑みと共に拒絶の言葉を投下した。

「吐き気がすんだよ。クソみたいな唄ばっかでここは」
「…ッずっとそんなことを思いながら私たちと接していたんですか…!!」
「接していた?うん。そうだけどそれが何?」
「七海さんが作る曲も、みんなが奏でる歌もそう思ってたんですか!?」
「うん。だからそれが何?何が悪いの?お前はどうすれば満足なの?」

そう、いつもの純粋そうな表情で見つめ返せばトキヤは言いよどんだ。わからないよな。当たり前だ。生まれた時から洗脳のように植えつけられてきた固定概念でしか俺を説けれないもんな。そんなんじゃ、俺が納得しないのもわかってるもんな。頭はいいのに、バカだよなトキヤって。未だ胸ぐらを掴み上げるトキヤの目は鋭く俺を睨みつけている。天下のアイドル様がそんな顔していいのだか。

「なら…何故この学園に入学したんですか」
「簡単な話だ、利用するために此処に来た。ハナからアイドルと二人三脚なんかして芸能界生きるつもりなんかねえよ」

苦し紛れに絞り出した言葉は、今更すぎる根本的なことを問うだけの言葉だった。ああ、くだらない。バカバカしいことこの上ないね。自分が自分たちがそうい仕事を選んだからって価値観を押し付けるなんて。自分から吐露しろってふっかけておいて、いざ本音をぶちまければ説教?呆れてものも言えないとはこのことだ。

紙面ですら交わしていない口約束にはなんの拘束力もない。ああ、やだやだ。何でもかんでも素直に鵜呑みにするバカちんは。

「何を勘違いしているか知らんがここはそう言う場所だろ?来栖や聖川と組んだときだって、別にテストは一発合格だったし、うまーく合わせてきたよ?」

何の問題があるのか全くもって俺には解せない。人間関係円滑、成績優秀、教師陣からの人望も厚い。十分だろ。この腐った世の中の法律には自分を偽って他人と接しってはいけないなんて法律はない。だって、みんなそうして生きているから。結論、全部履き違えてるのはトキヤの方だ。自分の価値観に口を出されるほど仲良くなった覚えもなければ、そこまで想われる筋合いもないのだから。目敏い偽善者はこれだから嫌いだ。

「ま、この話は終わりにしようや。だるい。」
「ッちょっと、待ってくださ…!」
「じゃあな、トキヤ。明日のテストよろしくー」

これ以上の会話に必要性を見出だせないと判断した俺はトキヤに背を向けた。もちろん。校舎へと引き返す際に見えたカラフルな頭たちに手を振るのを忘れずに、な。




お題:剥声


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