極上の幸福を嚥下するの



これの続き

突然だけど、昨日とある会話の最中に高尾くんが日曜日という日は学生のオアシスだと言いました。けれど、わたしはその言葉を否定しました。なぜなら、わたしの彼氏の緑間真太郎くんと一緒にいる毎日はとても幸せだからです。真ちゃんといることは束の間の休日の日曜日なんかよりはるかに癒しで−−−わたしにとっては真ちゃんがオアシスだということで。まあ、ようするに今日は真ちゃんのお部屋でお家デートなうなんです。脈絡?そんなものは早々に思考回路からログアウトしましたよ。

「いえーい」
「誰に向かってピースしているのだよ」
「え、真ちゃんに向けてだけど?」

真上にある知的なお顔に微笑みかければ真ちゃんは読みかけていたバスケの雑誌を閉じて自分のスラックスの上に散らばったわたしの髪を撫でた。するり、するりとテーピングされた指先から逃げるサラサラの髪は女子力を高めるために奮発して買った馬鹿高いシャンプーとトリートメントの賜物だ。

「大体、男の膝などただ硬いだけだろう」
「うん、超硬い」
「ならば…」
「いいの。真ちゃんのだからいいの」

わたしも、と頑張って短い腕を精一杯伸ばすけど、身長が195センチもある真ちゃんはやっぱり座高も高くて。ううん、届かないや。虚しく空を掴んだ手の平にちょっと悔しくなる。そんな、真ちゃんの髪も触りたいけど膝枕を手放すのも惜しい欲張りなわたしは妥協してかろうじて手が触れる頬へ指先を滑らした。

「ね、」
「なんだ」
「エロ本ないの?」

男の子の聖書な んでしょ?エロ本って。昔、どこかのティーンズ向けの雑誌で読んだ内容をふと思い出したので、思ったことをそのまま口にすれば真ちゃんはカッ、と目を見開いて絡めていた髪の房から手を離し、わたしの頭を叩いた。うん、いたい。

「ッお前はまたそういうことを恥ずかしげもなく…!」

瞬間、頬に朱が走る。執拗にメガネのフレームを押さえるこの動作は真ちゃん独特の照れかただ。男の子なのに本当に免疫がないなあ。ちょっと真ちゃんの将来が心配になったわたしは「ね、真ちゃん」と服をくいくい、と引っ張る。「…なんなのだよ」まだ朱が走ったあとの余韻を残す頬に手を添えてわたしは倒していた上体を起こす。

「キスしよ」

それでもってその心配の種を枯らしてしまうのは自分じゃないと嫌だと思うわたしは我が強いのだろうか。いやん。わたしは実は肉食系?自覚ないとかタチ悪いどころかビッチじゃないか。まあ、それはもちろん真ちゃん限定だけど。

「…ッ待て」
「えー…お預け?」
「そうではない」

目を閉じて顔を寄せようとすれば、ばしり、と両サイドから延びてきた大きな手のひらに阻まれる。阻まれるか、ちょっとショックなんだけど。やっぱりスキンシップ過多気味の女の子は嫌われる傾向にあるんだろうか。高尾くんの嘘つきめ。何が「真ちゃんは奥手だからグイグイ行かないと駄目だ」だ。嫌われちゃったら意味ないだろチャラ男め!と内心でひとり八つ当たりと不安のループにはまっていると、ふいに口元を柔らかい何がかさらっていった。え、ちょっと、まさか。

「…そういうことは普通、男の方からするものだろう」

やだ私の彼氏男前すぎるんですけど。

「…真ちゃんさぁ」
「?」
「あんまり可愛いことばっかり言ってると舌入れるよ」
「なっ…!?」

思わず赤らんでしまった顔を見られたくなくて真ちゃんが耐性のないような言葉を口にすれば再び朱が差す頬。その、二人して真っ赤なのがおかしくて吹き出せば真ちゃんも、僅かながらも笑ってくれて。

「ん」
「全く…」

何だかんだ言いながらも、結局わたしも真ちゃんに甘いし、そんなわたしを真ちゃんも甘やかしてくれるのでした。結論。まとめると真ちゃんが大好きですってことでした。まる。




お題:水葬


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