愛してるの最上級はなんですか?



「しんちゃーん」

間延びした声でわざと愛しい人の名前を呼べば彼は読みかけの本に栞を挟み、緩慢な動作で私を見上げた。

「どうした、▼▼」
「真ちゃん明日ってオフだったよね」
「ああ。確かに明日はそうだが…」

愛用の黒縁メガネのフレームを指先で押し上げながら「どうしたのだよ」と私をモスグリーンの双眸に映す彼氏様に私は久しぶりに恋人らしいことをしようと提案した。ていうか中学のときから変わらないその口癖可愛すぎやしませんか。

「明日デートしよう!」

もちろん高尾君とチャリアカーはナシの方向で。ということを付け足すと真ちゃんは慌てたように辺りを見回すと、ば、っという効果音がしそうな勢いで眼前に立つ私を見上げて睨んだ。

「いやん。真ちゃんこわい」
「馬鹿ッ、誰かに聞かれていたらどうする!」

ええー、別に困らないんだけどな私は。目元にうっすらと朱を走らせた真ちゃんは語尾を荒げてメガネのフレームを押し上げた。わかってるよ、その動作が照れ隠しだってことくらい。なんたって私の彼氏様はシャイなのですから。それでもって高尾君曰くそういうのは今の時代、ツンデレって言うらしい。そんな真ちゃん萌え!って言いたいところだけど、多分口にしたらしばらく喋ってくれなくなっちゃうから口にするのはやめておこう。賢明な判断でしょ、えへん。

「で、明日はデートしてくれるのかな。彼氏様?」

あざとく首を傾げてみせれば、真ちゃんは言葉に詰まったように言葉にならないような、なにかに堪えるような声をあげる。やだ、可愛すぎるよ真ちゃん。超写メりたい。なんて一人内心でツンデレモードに突入した真ちゃんの様子に悶えているとふいにスカートの前で組んでいた指先をくん、と引っ張られる。

「ん?なあに、真ちゃん」

ああもう。可愛いなあ。ふにゃふにゃと今の私の顔は締まりのない笑みを浮かべているだろう。

「当たり前なのだよ、…その、好きな人と時間を共にしたいと思うのは…あ、当たり前だろう、?」

滅多に口にしない角砂糖のような甘い言葉を恥ずかしげにしながらも紡いでくれる唇に私の中で何かがぱちん!と音をたてて引きちぎれた。知らない。可愛すぎる真ちゃんが悪いんだもの。だから私は悪くないハズ。うん。

ちゅうっ。と私の胸の奥で弾けた衝動に任せて自分のそれを真ちゃんの唇に押し当てる。

「なっ…!?」
「えへへ。奪っちゃった」

彼の不器用な優しさが好きだ。テーピングに隠された指が綺麗だってところもメガネが似合う知的な顔立ちも、女の子には追い付くことができない高い身長も、語尾が特徴的でおは朝占いを盲信してるところも全部、全部好き。

愛してるの最上級の言葉はなんだろう。ウィキペディアさんには載っているだろうか。帰ったら調べてみないと。そんなことを思いながら私は今日も彼に愛の言葉を囁く。

「真ちゃん大好き」
「…知っている」
「間違った愛してる、だ」
 




愛してるの最上級はなんですか?





「…愛されているのだよ」
「やだもう。真ちゃん結婚して!」

我慢できず真ちゃんに飛び付いた私を今まで黙って眺めていた高尾君が手を振るのが視界の端で見えた。

「二人ともお幸せにね〜」
「任せて高尾君!真ちゃんは私が超幸せにするから!」
「高尾!貴様!」

そんな月曜日のある出来事でした。
  


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