最近、あの派手なピンク頭が目に付くようになった。 見かけるたびに苛立たしいあの人は、俺には見せない顔で笑っている。 別に、見たいとも思わないけど。 むしろ、俺を憎んで忌み嫌って、嫌悪に満ちた顔で睨んでくれた方がいい。 あの女みたいな、顔だけは可愛い先輩がその顔を歪ませる様が気に入った。 もっともっと見せてほしい。 もっともっと俺を嫌いになればいい。 先輩が突っ掛かってくるたびに、どうやってその綺麗な顔を歪ませようか考えるのがとてつもなく滑稽で、愉快だった。 「あ、すみません」 「……狩屋」 廊下を歩いてると向こうから霧野先輩が来たから、すれ違い様に足を引っ掛けた。 よろけた身体をなんとか持ちこたえ、期待通りに先輩は俺を睨み付ける。 いいね、その顔。最高。 「ふざけるのも大概にしろよ」 「さて、なんのことでしょう」 にっこりと邪気の無い顔で返せば、先輩はますます不機嫌になった。 もっと怒って、そうしたら先輩は俺しか見えなくなるでしょう? 「お前さ、」 「はい」 眉をひそめた先輩は一つため息を吐いて、うんざりそうな目で俺を見た。たまらない。 「サッカー部の皆には手を出すなよ」 「しませんよ、先輩だけです」 「……頭痛くなってきた」 そう言って頭を押さえる先輩の顔は真っ青だ。 俺のせいでそうなってると思うとぞくぞくした。 「保健室行った方がいいんじゃないですか?」 「いや、いい」 ふい、と顔を背けたと思ったら、何かを見つけたらしい先輩の視点はある一点を捉えて離さなかった。 見なくてもわかる、こういう反応は神童先輩だ。 どうやら向こうも気付いたらしく、さっきまで不快感に満ちていた先輩の顔は花が咲いたように明るくなった。 「――――、」 にっこり、よりもふわりと言った方がいいぐらいに微笑む先輩はもう俺を見ていない。 そういう顔、俺には絶対見せない。 当然と言えば当然だ。 故意とはいえ、俺は先輩を怒らせてばかりだから。 怒ったときの顔が好きだったから。 それなのに、「あ、好きだ、」なんて俺らしくもない。 笑った顔は好きじゃない。 へらへらにこにこ、どうせ神童先輩のことばかり。気持ち悪い。 (……でも、好きだと思ってしまった) このピンク頭が? 冗談だろ。 「狩屋」 「えっ」 ぐるぐると思考を巡らせているうちに、先輩の顔が目の前にあった。 ぼうっとしていたのだろう、珍しく心配そうな顔で覗き込まれる。 「授業遅れるぞ」 先輩は俺の頭を小突くと、そのまま神童先輩の隣に移動した。 一瞬もやっとしたけれど、これが嫉妬かと思うと今まで考えていたことが気持ち悪いくらいすとんと収まった。 気付いたところで今更だった。 先輩はいつだって神童先輩を見ていて、その瞳が俺に向けられることは一生ないんだ。 それで、いいよ。 Unfruitful love 111002 |