風介と晴矢がああ見えて仲良しなのは十分わかっている、……つもりだった。
二人はお日さま園にいたときから、いがみ合いつつも良い関係を築いていて、今になっては一緒のチームで協力するような間柄だ。
「君たちそこまで仲良かったっけ?」なんて聞けば、「お前を倒すには晴矢の協力が不可欠だろう」と眉一つ動かさずに答える風介は、本当に俺の恋人なのだろうか。
ちょっと泣けてくる。

「ねえ風介、サッカーしよう」
「いつもしてるじゃないか」
「風介と同じチームになったことないもん」
「言い方が気持ち悪い」
「ひどいなあ」

くだらない話を風介とする、この時間が、この日常が、たまらなく好きだ。
以前は、こんなことする暇なんてなかったし、こんなふうに平和な時間を彼と過ごす日が来るなんて思いもしなかった。

「好きなんだ、風介」
「何が」
「君が」
「……随分と唐突な話だ」

呆れ気味に風介は息を吐く。
その顔は以前の彼には想像できないほど穏やかな笑みを湛えていた。
変わったなあ、と思う。
宇宙人が演技だったとしても、父さんに贔屓されている俺を風介や晴矢が快く思うはずがなかった。
あの頃の風介は、俺が憎くて憎くてたまらなかっただろう。
サッカーでも勝てない、父さんの寵愛も得られない、そうなれば。
風介の憎しみの篭った瞳を、俺は何回受け止めてきたのか。
いつも風介の隣にいた晴矢を、俺は何回羨ましいと思ったのか。

「……ヒロト、聞いてたか?」

いつのまにか風介が仏頂面で覗き込んでいて、ああまずったなあと軽く頭を掻く。

「ごめん。聞いてなかった」
「はあ、まったくお前は……」

大袈裟にため息を吐いてから、風介はポケットから紙切れを二枚取り出した。

「これなら晴矢と一緒に行った方がマシかもな」
「えっ」

これ見よがしに紙切れをひらひらと振る風介。
よく見るとそれは映画の券、今流行りのやつだ。
風介にしては珍しい持ち物に、目を丸くして彼の顔を見る。
それだけで俺の言わんとしていることがわかったのか、風介はふんと鼻を鳴らして「晴矢からもらった」と券を一枚押し付ける。

「晴矢……から?」
「急に行けなくなったらしい」
「で、それを?」
「ああ、ヒロトと行けって」

ほんと大したお人好しだよ、無自覚なんだろうけど、と微笑する風介。
……風介と晴矢は仲が良い。
本人達にそう言ったら確実に否定されるけど、本当はものすごく仲が良い。わかってる。
俺はずっとそんな二人を見て、人知れず嫉妬していたのだから。
それに、気付いてしまったのだ。
俺が風介を見てるのと同じように、晴矢も風介を見てるってこと。
友情なんてものじゃない、金色の瞳は確かに情欲を孕んでいた。
俺が風介と付き合うようになってからも、その視線は変わらない。

「……一緒に行けるんだろう?」

不安げに揺れた瞳に覗き込まれれば、俺はにっこりと笑みを作って頷くしかない。
惚れた弱みというやつだろう。
胸を撫で下ろし、「そうか、よかった」と言う風介は素直で可愛い。
心がじんわりと温かくなったところで、よほど嬉しかったのだろう彼はとんでもないことを口走った。

「晴矢にお礼言ってくる」
「ちょっと待って!」

そんな締まりの無い顔をして?
普段の冷静さを欠いた状態で?
いくら仲が良いって言ったって、そんなの許さない。
だって、こんな風介きっと俺しか知らない。

「……ヒロト?」
「行かないでよ。お願い」

平静を装い、俺はできるだけ甘えた声で彼を引き止めた。



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