リスのような精霊が向かった先には、見たことも無い少女が立っていた。
精霊を肩に乗せ、こんなところにいたの、と優しげな表情を見せる彼女に、十代はつい見惚れてしまっていた。
青いジャケットに紫のフリルがついたVネック、ショートパンツにニーソックス、膝ぐらいまであるブーツを履いている。
お互いに初めて会った気がしないという感想を持ち、握手を交わした。
彼女の手はごつごつした十代の手とは違い、すべすべしてとても綺麗なものだった。
新入生かと思われた彼女はアークティック校からの留学生で、名前をヨハンといった。
入学式に派手な登場をかまし、全校生徒を驚かせた彼女は、私ったら方向音痴なんだから、と周りの反応など気にもしないで笑う。
十代が今までに会ったことのないタイプの人間。
彼女という存在は、十代の興味を惹き付けるのに十分だった。

「アニキは本当にヨハンが好きッスね」

そう翔に呆れ気味に言われても、十代はまあそうだなあと肯定的に考えた。
ヨハンと出会ってから、いろいろなことが起こった。
プロフェッサーコブラの企みに始まり、異世界に飛ばされ、彼女の力を持って救い出されたこと。
そして、異世界に取り残された彼女を今度は自分が救うのだと意気込んでもう一度異世界に赴き、自分勝手な行いのせいで仲間を次々と失い、そこで現れた覇王というもう一人の自分の存在や、精霊のユベルと超融合のカードで一つになり、昔の自分とはかけ離れた存在になってしまったこと。
そんな長いようで短い期間で変わらなかったことと言えば、自分の彼女に対する想いだけだった。
彼女はいつだって十代を自分の親友と認め、支えてきた。
レインボードラゴンの力を使って皆を救い出した彼女が異世界に消えてからもなお、十代はその温かさに依存していた。
依存していたからこそ、彼女がいないということに当時の十代は荒れていたのだった。
ついには仲間を失望させるほどに、十代は彼女に執着していたのだ。

ヨハンを好きだったら何か問題でもあるのか、と返せば、困ったような笑みが翔の返事だった。
要は、傍から見たら仲が良いんだな、で済む話。
だがそれは同性同士の話であり、異性だとまた違ってくるのだった。
この年齢になってくると、誰が誰と付き合っただの別れただの、そういう話が絶えない。
そんな中で周りから一目置かれている十代が留学生の女子に執着しているなど、格好の餌に過ぎないのだ。
当然、十代の耳にもそんな噂は入ってきていた。

「ま、俺はそうなってもいいけど」
「えっ」

翔は思わず声を上げた。
今までフラグというフラグをばっきばきに折ってきた十代がそんなことを言うなんて、夢にも思わなかった。
翔はてっきり、十代は年頃な話題に興味が無いのだと思っていた。
そしてそんな彼を、かっこいいとさえ思っていたのだ。

「それってつまり、アニキは」

翔が言い終わらないうちに、十代は立ち上がった。
なかなか釣り竿に反応が無いので、今日はもう魚がいないものと諦めたのだ。

「お前も早く寮に帰れよ、翔」

初めて出会ったときとは違って青い制服を身に纏っている友人に向かって、十代は笑いかけた。


*


「十代、大丈夫?十代!」

ふと目を開けると、懐かしい彼女の姿がそこにあった。
頭がガンガンする、まるで乗り物酔いしたみたいに気分が悪い。
斎王と接触した際に、己のカードが闇に感染したようだった。

「すまない、ヨハン……」

親友である彼女を敵と間違えて勝負を仕掛けるなんて、と十代は項垂れた。
それでも変わらず天真爛漫に振る舞う彼女に、十代は救われたような気になる。
彼女はいつだってそうだった。
その明るさに、いつだって十代は救われてきたのだ。
自分達の間にダークネスの付け入る余地なんてない、と彼女がきっぱり言ったのも、十代の気持ちを軽くさせるのには十分だった。


*


それから何年も経った。
十代はあっというまに大人になっていて、変わらず人と精霊の手助けを各地に回って行っていた。
たまに彼女のことを思い出すが、もう会うことはないだろうと決め付けていた。
もう何年も連絡を取っていないし、各地を転々としているため、何億人もの人が行き交う中で彼女に気付くことはないものだと、十代は思った。
それでも気付くことがあるというならば、それは……。

ざあっと風が吹き、十代の長めの襟足が視界を遮る。
瞬間、訪れる闇。
だが、それはもう恐れることのないもの。
どんなときも、自分という光で照らしていけばいいのだから。
ようやく視界が開けたとき、十代は一番最初に、あの懐かしい翡翠の瞳を見た。



それは紛れもなく運命で、



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