(※かっこいい十代さんなどいない) デュエルアカデミアを卒業した俺は、世界中を回って人間と精霊の手助けをしていた。 していた……のだが。 「もう限界だああああああ!」 辺り一面砂だらけ、簡単に言えば砂漠の真ん中。 俺はついに発狂した。 鬱陶しそうに睨むユベルの視線がぐさぐさと突き刺さる。 一体どうしたのかと聞いてくる大徳寺先生に、俺の魂(と書いてユベルと読む)は『いつもの病気だよ』とため息混じりに答えた。 「だってこんなに長い間離れたことなかったもん」 擦り寄ってくるファラオの喉を撫で、ぶちぶち口を尖らせる。 『女子か!』というユベルのツッコミはこの際無視だ。 何かなかったかと荷物をがさごそ漁ってみる。 何か、そう、あいつに関する何か……!! 「あ」 出てきたのは、卒業の際に仲間たちからもらった色紙。 懐かしく思うと同時に、ちょっと照れ臭くなったり。 いろいろあったよなあ、と物思いに耽ると、小さな紙切れが色紙に貼り付いているのに気付いた。 見たこともないそれに首を傾げつつ、綴られた文字に目を通すとそれは誰かの住所のようで。 筆記体で読みにくかったが、最後にJohan≠ニ書かれていたのだけははっきりとわかった。 「あいつ、いつのまに……」 おそらくこれはヨハンの住所なのだろう。 あれ?わざわざ教えてくれたってことは、行ってもいいってことだよな? むしろ来てほしい的な? 『十代、次はどこにい』 「ヨハンの家!」 『……』 おい、頼むからかわいそうなものを見るような目で俺を見ないでくれ。 * 大徳寺先生やユベル(渋々だったが)の協力のおかげで、なんとかヨハンの家らしきところに着いた。 家、と言うよりマンションと言った方が近いかもしれない。 横に長い建物が目の前にずっしりと聳え立っている。 『じゃあボクたち街の中ぶらぶらしてるから』 「えっ大丈夫なのか」 『君たちといるよりはマシだよ』 そう言うと、ユベルはパッと消えた。 気が付けばファラオもいなくなっていて、何だか無性に恥ずかしくなる。 「ごめん皆……今度美味いもん食わせてやるから」 「精霊って飯食えるのか?」 「さあ……って、」 背後から聞こえる懐かしい声。 俺は飼い主を前にぶんぶんと尻尾を振る飼い犬よろしく、そいつにがばーっと抱き着いた。 「よはああああああん!!」 うわあ、と間抜けな声を上げたヨハンから良い匂いがして、何かが満たされていくのがわかる。 「……十代?」 「くんかくんかすーはすーはー」 「ちょっおまっきもいからやめて!!」 うっせえ俺はヨハンが足りなくて死にそうなんだよまじもうほんと無理なんだって、とヨハンの項に顔を埋めて力説した。 すると、何か悟ったらしいヨハンは何も言わずに俺を部屋に上げてくれた。 さすが俺の親友兼嫁。 「誰が嫁だ」 「あれ、声に出てた?」 「ばっちりな」 キッチンから戻ってきたヨハンが、両手に持っていたカップを二個ほど、ミニテーブルの上に置く。 ありがたく頂くと、それはどうやらコーヒーらしかった。 砂糖とミルクが置かれたが、何も入れずに啜る。 「悪かったな、急に来たりして」 「いいや」 ヨハンは首を緩く横に振った。 そして、住所に気付かなかったらそれでいいと思っていた、でも本当は来てほしくてずっと待っていた、と照れながら続ける。 なんだこいつ、超可愛い。 久しぶりに会って、顔見ただけでも舞い上がるほど嬉しいのに、俺がさらに喜ぶようなこと言って。 「……十代、どうしたんだ?」 「ごめん、ちょっと暴れたくて」 「あば……部屋のもの壊すなよ」 このどうしようもない気持ちに耐えきれなくなって、ごろごろ。ひたすら転がる。 もちろん、比較的広めなスペースに移って、だ。 物にぶつかって壊してしまったりしたら、俺は多分立ち直れない。 ごろごろ、ごろごろ、どすん。 あーやっべ足ぶつけた……って、あれ、何か落ちてきた? 「うわああああああやっちまったああああああ」 「落ち着け十代!それ枕だから!落ちてきたの枕だから!」 ヨハンの言葉にはっと我に返ると、傍らに落ちたのはふかふかの淡い緑色をした枕だった。 よかった、大事には至らなかったようだ。 元に戻そうと起き上がると、俺がぶつかった壁の上に収納スペースがあって、そこに布団が積み重なっていた。 ヨハンはベッドで寝るようなイメージがあったから正直意外で、つい固まってしまった。 「本当はベッドにしようかと思ったんだけどさ、日本って布団で寝るんだろ?」 こいつどんだけ日本好きなんだよくっそ可愛い! あまりの可愛さに思わず持っていたヨハンの枕に頭をぶつけてしまった。 するとふわり、とヨハンの匂いがしてたまらなくなる。 ああ、変態だ俺。 冒頭からおかしかったけど完全に変態だよ。 「十代」 「ん?」 「枕に頭埋めてどうした」 「ヨハンのにほひが」 「ああ……」 ついに呆れたようなヨハンの声が聞こえた。 嫌われるかも、とは微塵も思わない俺はどこまでも自信過剰だ。 「俺、ヨハンの匂い好き」 おっと口が滑ってしまった。 でも本当のことなのだから仕方ない。 ヨハンの匂いは安心する。 なんだろうな、上手く言い表せないけど、とにかく幸せな気持ちになるんだ。 とは、さすがにこっ恥ずかしくて言えない、けど。 「……ヨハン?」 気が付くと背後にヨハンがいて、ぎゅっと抱き締められた。 今度はヨハンが俺の項に顔を埋める。 「ヨハーン、ヨハン」 「……俺だって」 名前を呼ぶ声を遮るように、ヨハンは口を開いた。 「俺だって、十代の匂いが好きだ」 「……匂いだけ?」 「なっ、ずるいぞ!」 にんまり笑って振り返れば、そこには耳まで真っ赤にしたヨハンが口をぱくぱく。 十代はどうなんだ、としきりに聞いてくるから、満面の笑みで言ってやった。 「全部好き、大好きだぜヨハン」 すると、何故か半泣きで馬鹿!って叩かれた。 あーあ、こいつ早く嫁にこねぇかな。 幸せ真っ只中 111204 |