(※花村コミュネタバレ)

誰かの特別になりたかったのだと、陽介は言った。
でも、それは違う。そういうのは自然となるものなんだ、とも言った。
そして、俺が陽介にとって特別なように、とも。
さらりと、まるで何でもないかのように、ジュネスのがっかり王子こと花村陽介はのたまった。
陽介から特別だと思われるのは素直に嬉しいのだが、それで?と続きを求めてしまう俺は本当に浅ましい。
俺が誰にでも、ましてや男相手にホイホイ抱き締めると思ってるわけ?
様々な人と交流してきたが、自分から誰かを抱き締めたのは初めてだった。
お前だけだよ気付け馬鹿、など言えるはずもなく、今日も俺は陽介をお昼に誘い、屋上に来ていた。

「うっめぇ!さすが相棒!」

一瞬、陽介がしっぽをぱたぱた振っている犬に見えて思わず目を擦った。
なるほど、俺にとっての陽介は犬だったのか。
俺がわざわざ弁当を多めに作って陽介に分けるのもあれか、餌付けのつもりか。
なんて、そんなわけ、ないし。

「美味しそうに食べてもらえて俺は幸せ者です」
「大袈裟だっての。つか、幸せ者は俺の方だって」

嬉しそうに肉じゃがを頬張る陽介を見ていると、自然と口元が緩む。
この笑顔が見たくて作ってるようなものだ。俺って健気。
陽介の中で俺は、さしずめ自慢の相棒と言ったところだろう。
絶対的信頼を寄せられているのは普段の態度からよくわかる。
よくわかるからこそ、逆にそれが辛いわけで。

(俺だって、お前は特別なんだけど)

恐らく、特別のベクトルが違う。
完二のときでさえ過剰な反応を示していた陽介のことだ。
お前の自慢の相棒はガチでした、とか言ったら卒倒しかねないんじゃないのだろうか。
……いやいや、俺は男が好きなのではなく花村陽介が好きなのだ。
陽介が小西先輩の死を受け入れきれていなかったことを打ち明けたとき、その瞳からぼろぼろと大粒の涙が零れるのを見てしまった。
それがいけなかった。
今まで辛さを誤魔化して気丈に振舞っていたのだと思うと、どうしようもないくらい愛しく思えた。
それと同時に、陽介にこんなにも想われている小西先輩がひどく羨ましかったのも事実で。

「ん、ごちそーさん!」
「お粗末様でした」
「なに、お前今日はやけに敬語なのな」

はは、と陽介が笑う。
そりゃあ、やましいことがあったら敬語にもなりますって。

「陽介」
「ん?」
「俺、お前のことすごく好き」

どんな意味に取られてもいいから、それだけは伝えておきたかった。
いつもの調子で言ったせいか、陽介は少し固まった後すぐに「俺も相棒のこと好きだぜ!」と元気良く返してくれる。
やっぱり伝わってないなあと思いつつ、今はそれでもいいかと空っぽになった弁当を閉まった。



いつかは、きっと



111116
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