(※学パロ。捏造もりもりでもはや別人) つまらない、と思いながら中等部の生徒が登校している様子をぼんやり眺めていた。 高等部と中等部は隣にある。もちろん、その隣には初等部がある。 教室の窓からは中等部の校門が見え、自分よりいくらか幼い生徒たちがそれぞれ歩いている。 その中に見覚えのある、炎のように真っ赤な頭と、高等部の教師であるその保護者を見つけたサレは、密かに口端を上げた。 極悪非道という言葉がお似合いな彼は、頭を撫でられて上機嫌な赤い少年を見ていると嗜虐心がそそられるというか、とにかくその顔をめちゃくちゃに歪ませたくなるのだ。 想像するとぞくぞくするなあなんて思っていると、同級生のヴェイグが呆れたような目でサレを見ていた。 「何か用かい?」 「……あまり苛めないでやってくれ」 「苛めてないよ」 サレが再び外に目をやると、もうあの赤の姿はどこにもなかった。 * 放課後、帰宅の準備をしていると元気な声が教室に響いた。 学ランは一緒だが、色が微妙に淡い制服を纏った、真っ赤な少年。 「ヴェイグー!いるー?」 中等部の彼がここに来るのは珍しいことではないので、その声に驚く者は誰もいない。 楽しい玩具を見つけたような目で、サレは彼を捉える。 そして足早に、きょろきょろと教室を見回す彼に近寄った。 「ヴェイグはもう帰ったよ」 「えっほんと!?」 目を見開き、がっかりしたような表情をしたかと思えば、彼はその頭と同じくらい真っ赤な瞳をきっと吊り上げてサレを見た。 「嘘、吐いてないよネ?」 「僕がいつ嘘を吐いたと言うんだい、マオ坊や」 「吐いたヨ!昨日もその前も!!」 ユージーンの居場所を聞いたときだって、教えてくれたのは逆方向の場所だったじゃない、とマオはたいへんご立腹の様子でサレが吐いた嘘を数え出す。 少なくとも、両手では足りないぐらい嘘を吐いただろうことはサレ自身もわかっていた。 だが、毎回嘘を吐かれているのに、素直に信じてしまうマオにも問題はある。 自分が吐く言葉なんか十分信憑性に欠けるだろうに、とサレはいつも思う。 「最初から信じなければいいのさ」 僕の言葉なんかね、と自嘲気味に言うと、マオは目を丸くした。 「サレ、熱でもあるの?」 「失礼だね、坊や」 こんなお子様に馬鹿にされるとは。 ぴしっ、と指で額を弾いてやると、マオはすぐに暴力反対!と後退りをした。 少し潤んだ瞳にぞくぞくする自分がおかしいとは、サレは微塵も思わない。 「……昔のサレだったら、信じなかったヨ」 ぽつり、呟かれた言葉にサレの思考が一瞬止まる。 孤児だったマオは、何年か前にユージーンに引き取られた。 近所に住んでいたサレがその遊び相手となったが、荒れた家庭に捻くれ歪んで育った彼は常にマオを苛めていたのだ。 毎日のように泣いていたマオ、それがサレにとってはとても愉快だった。 「今とどう違うのさ」 ぶっきらぼうにサレは言った。 今だって、マオを苛めるのは楽しくて仕方ない。 昔と何ら変わりはないはずなのだ。 「昔はネ、全体的に怖かった」 「ほお」 子どもには意外と本質が見えていたりする。 マオがやけにびくびくしていたのは、ただ単に苛められたからではないのかもしれない、とサレは頷いた。 「今は怖くないのかい?」 聞くと、マオはう、と言葉を詰まらせた。 眉をハの字にしながら言いにくそうに口を開くその姿に、どうしてこの子はこうも嗜虐心を煽るのが上手いのだろうと問い詰めたくなってくる。 「こ、怖くない……と言ったら嘘になる、けど」 「けど?」 「ちょっと柔らかくなったよネ、サレ」 促したのが馬鹿らしく思えてくるその答えに、サレは思わずマオを睨み付けた。 「はあ?」 「うわ、ヒドイ。聞かれたから答えただけなんですケド!」 柔らかくなった?どのへんが?君の目は節穴なの? 言いたいことはたくさん出てくるが、サレはまず理由を聞こうと考えた。 いくらマオが人懐っこくたって、何か理由がなければこんな言葉は出てこない。 何と言っても、相手があの冷酷で残忍なサレなのだから。 「多分、ヴェイグたちのおかげだと思うヨ」 にっこりと子どもらしい笑みを浮かべて、マオは言った。 「サレが変わったの、ヴェイグたちと出会ってからだもん」 ヴェイグたち、とは恐らくヴェイグの他にシスコンの男と女医志望の少女とハーフの女、あとは真っ直ぐで強い心を持った少女のことが含まれているのだろう。 彼らとはサレが中等部に入った頃に出会った。 そのとき初等部にいたマオは何があったのかすでに彼らと顔見知りで、よく遊んでもらっていたと言う。 それに教師のユージーンと関係があるのは、言うまでも無い。 「変わった、ねえ……」 全くと言っていいほどそんな気がしないサレは、考えるように呟いた。 あとねあとね、と興奮したようにマオは続ける。 「ボク、夢見たんだ。違う世界の夢。そこでボクとユージーンは、ヴェイグたちと世界を救うために旅をしていた」 壮大だね、と答えたサレは子どもの「今日は誰と何をして遊んだ」といったような話を聞いてるような気分だった。 しかし、構わずに続けるマオの顔が少し曇ったのには、ちゃんと気付いた。 「……サレも出てきたヨ。成人してたけど、昔のサレ。自分より弱いものを苛めて楽しんでた。酷いこともいっぱいしてた」 「今と変わらないじゃないか」 「自分で言う?それ」 あはは、とマオは笑うが、それは一瞬のことだった。 「サレは最後までボクたちの敵だった。最後まで、キミはキミのままだった」 「……そう」 「成人するまでにヴェイグたちと出会ってなかったから、そうなったのかなって思った」 「まあ、大人になった後じゃ手遅れかもね」 「他人事みたいに言わないでヨ」 ぷう、と頬を膨らませたマオを、サレは不思議な気持ちで見つめた。 この子は、どうして。 「だから、こっちが現実でよかった」 意地悪なところは変わらないけどネ、と付け足して。 目の前の子どもは言う。 「坊や」 「なに?」 「僕のことよく見てるんだね」 「どれだけ付き合い長いと思ってるの?」 それもそうか、とサレは苦笑する。 荒んだ家庭に歪んだ自分の心、他人が傷つく姿を見て喜びにも似た感情が湧き上がってくるのが普通ではないことはわかっていた。 他人が嫌がることをして他人に嫌われて、それで全然構わなかった。 むしろ、嫌わない方がどうかしているとさえ思っていた。 それなのに、マオは。マオだけは。 どんなに酷いことをしても、べそべそ泣かせても、サレから離れなかった。 最初こそ、学習能力のない子どもだと思っていたのだが。 それはどうやら、違っていたらしい。 「……そうだね、昔の僕なら今こうして君といないかもしれない」 「でしょ?」 「だけど」 どこか得意げなマオの頬を両手でぶに、と引っ張る。 よく伸びる、さすがお子様。 何するの、と(言えていないが)喚くマオを無視し、感心しながら教室をぐるりと見回すと、どれだけ話していたのだろう。 もう誰も残ってはいなかった。 「君さ、僕が変わったのがヴェイグたちのおかげだと本気で思ってるの?」 「……ふぇ?」 違うの、とでも言いたそうな目で見てくるマオ。 ぞくぞく。 恐ろしいほど無垢な子ども。 可愛い、とらしくもない感想を持ったと同時に、サレはその小さな口に噛み付いた。 変わった彼とその原因 (で、ヴェイグに何の用?) (忘れたヨ!サレのせいで!) 111114 |