魔法の人
4:50 29 Oct



目が覚めて一番最初に見たものは、ボクがずっと追い求めていた光だった。
“絶対的な希望”、彼にはそれがある。
長い長い眠りのせいでぼんやりとする頭でそう感じるのは、彼の希望が大きすぎるからか、それともボクが元々知っていたからなのか。

「おはよう、狛枝クン」

ほっとしたような表情を浮かべて彼は言う。
ボクは彼を知っている。
それはもう、よく知っている。
“超高校級の超高校級マニア”と言っても過言ではないと自負しているボクが、彼に興味を持たないわけがなかった。

「……久しぶりだね、苗木クン」

会いたかったよ、と言って身体を起こせば、苗木クンはあわあわと「起きたばかりなんだから無理しないでよ」とボクを寝かしつけた。
ボクみたいなゴミクズに苗木クンが気を遣っていると思うと、恐れ多すぎて死にたくなった。
ボクが崇拝し続けた希望、どんな絶望にも打ち勝つ希望が、彼の小さな身体に宿っているのだから。
愛しいなあと思ってじっと苗木クンを見つめていると、その視線を感じたのか彼はハッとして決まりの悪そうな顔をした。

「あっ日向クン達に知らせなくちゃだよね、気が回らなくてごめん」

慌てて病室から出ようとする苗木クン。
でも、ボクがその腕を掴んだことで彼の行動は未遂に終わる。

「狛枝クン……?」
「ボクなんかのために苗木クンの貴重な時間を割いちゃってごめんね、おこがましいにもほどがあるよね、でも……まだ、いてほしいんだ」

苗木クンにそばにいてほしい。
ボクは苗木クンの腕を掴んでいない方……左腕を見ながら、そう思った。
腕を掴まれて停止した苗木クンは一瞬迷っている表情を見せたが、すぐにボクに向き直って言った。

「ボクでいいなら」
「ありがとう、苗木クン!」

お人好しな苗木クンならそう言ってくれるって信じてた。
よかった、学園にいた頃と全然変わってない。
苗木クンとは偶然にも似た必然で出会い、ちょくちょく話をする仲だった。
ボクと同じ超高校級の幸運に興味があったからね。
それに、とても興味深いことがあった。
ボクのそばにいると不幸になる、とよく言われたものだが、(疫病神、なんて言われたこともあったっけ)苗木クンだけは別だった。
苗木クンにだけは、ボクといることで降りかかる不幸は、全くと言っていいほど起こらなかったのだ。
いくらボクが幸運に出会ったところで、苗木クンに不幸が訪れることはなかった。
彼はちょっとした運の悪さから「超高校級の不運の間違いだ」と周りからよく言われていたが、そんなことはないとボクは思う。
それは違うよ、君は間違いなく超高校級の幸運だ、と胸を張って断言できる。
それを証明できるのは、ボクの能力なのだから。

どんなに幸せを感じていても、苗木クンは変わらずそばにいてくれる。
それがどれほど安心することなのか、ボク以外の人間にはわからないのだろう。
でも、もしかしたら。
もしかしたら苗木クンは、わかってくれるかもしれない。
ボクのことを覚えている、苗木クンなら。

「苗木クン」
「なに?」
「抱き締めてもいい?」

さて、苗木クンはどう出るだろう。
少し緊張しながら彼の反応を伺うと、ふわり、と身体が引き寄せられた。
苗木クンの腕がボクの背中にまわっていて、ボクは本当に久しぶりに苗木クンという存在を感じた。

「大丈夫だよ、狛枝クン」

苗木クンの声がすとんとボクの中に落ちてくる。
ああ、苗木クンだ。
ボクは目頭が熱くなるのを感じて、苗木クンをぎゅう、と抱き締めた。




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