今このときだけ、
2:05 07 Sep



キセキの世代、No.1シューター緑間真太郎。
同じ部活で同じクラスで前後の席。
高尾には彼と関わらないという選択肢がなかった。
綺麗な弧を描いて決まるシュートを見たときから高鳴って仕方がない鼓動を理由に、高尾は緑間という男に期待していた。
彼なら自分を飽きさせない、楽しい楽しい高校生活を送らせてくれるだろう、と。

(あいつ、おは朝見てるんだ)

緑間のものであろう鞄から見え隠れしている植木鉢を見て、高尾はにんまりと笑みを浮かべた。


*


「真ちゃん、じゃんけん……!」
「何度やろうと同じなのだよ」

ぜえぜえと息を切らしながら、高尾はリヤカーを繋げた自転車を止める。
そのリヤカーに乗って悠然としるこを啜る緑間は、催促されるがままに右手を出した。
めでたく連敗記録を更新した高尾はがっくりと肩を落とし、「はいはい、わかりましたよ」と口を尖らせながらペダルに足をかける。
毎朝毎晩繰り返されるこのやり取りを、高尾は決して嫌いではなかった。
そもそも自分から言い出したことであるし、今度こそ緑間に勝ってリヤカー付き自転車――もとい、チャリヤカーを漕がせてやろうと密かに燃えている。
緑間はやはり、高尾を飽きさせない男であった。
異常なくらいのおは朝占い信者、語尾の「〜なのだよ」、マイペースで唯我独尊、そして電波、ツンデレ。
盛りに盛った要素をこの男は兼ね備えていた。
一緒にいて面白くないわけがない。
高尾は緑間の奇想天外な言動にひとしきり爆笑し、その意図を正確に汲み取っていく。
そうやって、緑間という男を理解していった。
……理解していく度に、高尾は思うのだ。

「なあ、真ちゃん」
「何なのだよ」
「高校卒業してもさ、一緒にバスケしようね」

この男の隣にいるのが、これから先ずっと自分でありたい、と。
そんなプロポーズじみたことを伝えてしまったら、たとえ相手が緑間のような変人であったとしても引かれるかもしれないことを配慮して、高尾はそんな言葉を選んだ。

「何を言い出すかと思えば」

本日のラッキーアイテムであるヘアピンを髪に留めた緑間が、澄ました顔で答える。
ああ、呆れてるなあと苦笑した高尾の耳に届いたのは、「当然なのだよ」という肯定の言葉。
普段から素直ではない緑間が発したとは信じがたい、けれど幻聴などでは決してなく。
卒業してしまったら、緑間とは離れてしまう。
進学先が同じならそんなことはないだろうが、きっとそうはならない。
一緒にいられるのは高校生活だけだと、今この時だけだと、高尾はわかっていた。
火を見るよりも明らかではあるが、それでも一緒にいたいと、緑間も同じ気持ちであったらいいのにと、そう思って、

(……こんなときにデレ、とか…、)

緑間の貴重なそれは、心臓がいくらあっても足りなくなりそうになる。
高尾は火照った顔を冷ますように、力一杯自転車を漕いだ。







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