少し風の冷たくなってきた10月。
その日は天気も悪かったせいか気温が低く、肌寒さで少し動くのがおっくうになりながらも南は自宅で引越しの荷造りをしていた。

「台所回りはこんなもんか、あとは俺の部屋だけだな」


大方片付いたらしく部屋の中にはいくつもの段ボールが積み上げられていた。


南には中学時代から高校卒業までテニス部でダブルスを組み、大学生になった今でもお互いの家に泊まったり旅行に行ったりとほとんどの時間を一緒に過ごしている相手がいた。

今日こうして荷造りをしているのも、その相手、東方と同棲を始めることになったからであった。


南と東方は中学卒業を期に付き合いはじめた。
それまでお互いを思ってはいたものの思いを告げるということはなく、付き合いはじめたのは卒業式に東方が南に告白をしたのがきっかけである。

それから五年間、とくに大きな喧嘩もなく地味'sよろしく平凡に仲良睦まじく、付き合いをしてきた。

五年目の先月、少し緊張した面持ちの東方が南に同棲しよう、と持ちかけてきた。
もちろん南に断る理由などなく、東方の緊張を良い意味で裏切り二つ返事でOKした。

そして昨晩から南は自宅の荷造りを始めたのだった。

元々計画的で真面目な性格の南は荷造りも予定通り今日中には終りそうで、あとは東方と住むマンションに荷物を送り、早ければ明日からでも入居する予定である。


荷物も残すところ自室だけになり、疲労で重い腰をあげ自室に移動しようとすると、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。


「お、東方かな」

無意識に頬が緩み重たいはずの腰が軽くなる。
一秒でもはやく扉を開けたくて南は小走りで玄関に向かった。


「東方、ずいぶん早かったな」

扉を開けると右手にコンビニの袋を持ち南に負けず劣らず頬が緩んだ東方が立っていた。
仕事帰りのせいか少し顔に疲れが読み取れる。

「ああ」

言い終わると同時に東方は南の体を優しく抱き締めた。
少し気恥ずかしくなりながら南も東方を抱き締め返した。

「荷物まとまったか?」
「大体は。あとは俺の部屋だけ」

物がなくなってがらんとしたリビングに東方を招き入れ床に座るように言うと、南はキッチンの片付けを一番最後にすれば良かったと少し後悔した。
東方が来ていっしょに夕食を取るにも皿も箸もグラスもすべて新聞紙に包んで段ボールに入れてしまったのである。

「あー悪い東方、皿とか段ボールにしまっちゃった…今出すからちょっと待っててくれ」

南が大きな段ボールを開け中から新聞紙の包みを出そうとすると、東方が近づいて来て段ボールを探る南の手をやんわりとさえぎった。

「いいよ南、俺コンビニで弁当買ってきたし。一緒に食おう」
「悪いな東方、さんきゅ」

東方のおかげで二度手間にならずに済んだ、と微笑みを向けてくる南に東方は南の髪をくしゃっと荒く撫ぜておう、とだけ返した。


弁当を食べ終えゴミをまとめると、南は引き続き自室の片付けに入り、東方もそれを手伝った。
もとより物が少なかったせいか、それとも東方が手伝ってくれたせいか南の部屋の片付けはすぐに終わった。
南の部屋は布団を残した以外、段ボールが四つと家具が少しあるだけで殺風景になった。

「手伝ってもらっちゃって悪いな」
「はは、今更何言ってんだよ」

最後の段ボールにガムテープを貼りながら東方は南に向き直り軽い笑いを漏らした。

「南と同棲できるなんて本当に夢みたいな話だけど、こんな風に引っ越しの手伝いしてると夢じゃないんだなって思うよ」

南を見つめながらひどく優しい声色で話す東方に南は照れ隠しか「そうだな」と素っ気なく返すことしかできなかったがそんな南を東方も分かっているようで形の良い眉を下げて苦笑した。

「さ、片付けも終わったし明日も早いからもう寝ようぜ」
「そうだな」

南は二人分のふとんを並べて敷き、東方に好きな方を使うように促すと自分も電気を消して布団に入った。

「おやすみ、南」

そう言うと東方はよほど疲れていたのか数分で寝息が聞こえてきた。
仕事で疲れているのに南の部屋の片付けまでしてくれた東方に南は申し訳ない気持ちになると同時に「俺って愛されてるなぁ」と実感する。

「…俺も寝よ」

寝返って南の方を向いた東方の寝顔に小さくおやすみ、と呟くと南も目を閉じた。


(目が覚めた時どうかこの幸せが夢でありませんように、)

遠くなる意識の中で南は小さく祈った。





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