冷たい床に押し付けられて自分の体温が奪われてゆくのがわかる。声を出したくても喉が圧迫されて思うように出せない。オレに跨がり首を絞めてくる先輩の両手を掴み抵抗してみても無駄だった。簡単に手はどかされ組み敷かれる。
いつもの霧野先輩はこんなことしない。こんな張り付けたような温度のない顔しない。だからこそいきなりの出来事に苦しくて怖くて助けを呼びたかった。
「ひっ…ぁが、ぐっ」
頭に血が上り顔が赤くなってゆく。息ができるかできないかのギリギリの境界線をキープする先輩に涙が出そうだった。ぎゅっと閉じられた目を薄く開けてみると視界には霧野先輩がこっちを静かに見つめていた。きれいな群青が自分を捕らえていて離さない。なんとなく目を逸らすことができなくて、自分も嫌味を込めて精一杯睨みかえしていたら人形のように動かなかった先輩の口角が少しつり上がったーーーー気がした。
首を絞める両手の力がさらに強くなる。もういよいよ考え事なんかしてらんなくて陸に打ち上げられた魚のようにひたすら口をぱくぱくしてる事しかできない。体の力も抜けてきて。視界に写るピンク色の髪も涙とかでぼやけてよく見えない。もう死ぬんだなって本気で思った瞬間やっと首に添えられていた両手が離された。
「がはっ…!はっ…はあっ」
いきなり沢山の酸素が体中に入り込み大きくむせる。
ぼやけてた視界から一つ二つと涙が落ちて部室の床を濡らす。自分でも制御できない嗚咽が部室に小さく響く。殺されかけた。しかも懐いていた先輩に。まだその事実が受け入れられなくて夢だと思いこみたくて目をつぶる。掠れた喉からヒューヒューと自分の息が漏れた。
「狩屋、オレ、お前が好きなんだ」
閉じられた視界からでもわかる他人の体温。同性に抱きしめられる事に嫌悪感を抱きながらも逆らったらきっともっと酷い事されるだろうから仕方なく受け入れた。
闇の中で微かに彼の嗚咽が聞こえた気がした。後ろから抱きしめる体も小さく震えている。でもきっと彼は泣いてなんかいない。気づかれないようそっと目を開けて彼を見れば静かにほくそ笑んでることでしょう。だってほら、彼の粘つくような声がまた、頭の中に響いてる。

「だから死んでよ。オレの大好きな狩屋」

おれは大嫌いです、なんて、愛し方を知らない先輩に言えるはずがなかった。


(ひとをころしたいきもちはママ譲り)



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -