マサ→蘭→拓
死ネタ

やっぱり、霧野先輩は馬鹿だと思う。だって、キャプテンをあれだけ恋い焦がれた目で見つめているのに、その思いは何一つ伝えない。神童、神童って発する言葉はそればかりで、そんなにあの人が好きなら好きって言っちゃえばいいのに。まあそのたったの二文字で先輩の未来は良くも悪くも変わっちゃうわけだけど。でもこのままぐだぐだした関係が続いてって、吐き出せない思いだけが募っていくぐらいなら、オレなら真っ先に楽になる道を選ぶ。だから先輩、
「オレと幸せになりましょ」
先輩がどんなに思いを寄せていてもあの人が気づかないのは、今の関係に満足しているからだ。オレなら先輩の満足のいくところまで行ってあげられる。先輩が望んでいることも、あの人にはできないことも、オレはできるのに。
ぽん、頭に手が置かれた。血が駆け巡っている手の平の温かい体温が微かに頭越しに伝わる。
「ありがとう」
霧野先輩は一言、寂しそうに、でもほんの少しだけ嬉しそうに言って微笑んだ。霧野先輩の瞳から溜まってた涙が一筋頬をつたって流れる。見ていてとても、きれいで優しくて、残酷な涙だと思った。
「お前が悪になる必要なんてないよ。こんなオレを好きと言ってくれて、本当にありがとう」
それだけ言って先輩はオレに背を向けた。その行動と彼から紡がれる言葉にひどく胸がいたんだ。ああ先輩。違うんです。オレは先輩達の割れた亀裂に入り込んでしまったしまった時点で悪なんです。悪い奴なんです。こうなるのはきっと、ずっと前からわかってた。でもやめられなかった。初めて会った時から先輩が好きで、先輩の全てを知ってみたくて、気づいたらもう後戻りができなくなっていて、

でも貴方は攻めなかった。
悪いのは紛れもなく自分なのに。先輩だって、知っていたはずなのに。

もう霧野先輩の耳に自分の声は届いていなかった。細い腕に真っ赤に染まったあの人の頭を乗せてしとしと静かに涙を流すだけだ。
ねえ先輩、貴方は今何を思って泣いているんですか。どうしてオレを怒らないんですか。
ふと、自分の頬が濡れていることに気づいた。先輩のきれいな涙とは違って、自分からは拭っても拭っても汚い涙が出るだけだ。
そうか、これがオレの罪なんだ。真っ赤な罪を体中に浴びてしまったから、霧野先輩はもう自分には振り向かない。二人で心の底から笑うことも、くだらない話をすることも叶わない。もう彼の後輩でいることは許されない。
邪魔だった。霧野先輩の絶対であるあの人が嫌いだった。純粋に先輩と無邪気に笑いあうあの人が目障りだった。そうだ、だから殺した。醜い嫉妬は風化することなく自分の体内で暴れ続けてついにはこの感情は表に出ようとオレを責め立てた。二人はきれいでオレは汚い。壊したのはオレで壊されたのは二人。変わったのはオレで変わらなかったのは二人。
どうすればいいのかわからなかった。後悔や懺悔などの感情はない。だけど喉を苦しくて、眼からはひたすら汚い涙が零れ落ちてきて拭っても止まらない。今すぐ先輩を抱きしめて、ごめんなさいと謝りたかった。でも真っ赤に染まった両手じゃ触れることはできない。全部自分のやったことだ。もう戻れない。霧野先輩が望んでいたような日はもうこない。三人が心から笑いあえる日はもう来るはずがない。
ならば、と頭の片隅で静かに思った。ならば思い続けよう。信じていたはずの後輩に裏切られた哀れな霧野先輩を、どんなに遠くからでもずっと見守れるような存在となろう。汚くても、先輩を思う気持ちだけは真っすぐだと信じていたい。だってオレは、あの人を手に掛けてもなお、霧野先輩への気持ちだけは変わらないのだから。だから、何度生まれ変わっても、ずっと思い続けます。どんなに辛くても悲しくてもこのまま消えてしまいたいと思ってもずっとずっと。
いつか貴方が気づいてくれるまで。

「先輩」

「ごめんなさ、い」

自分の手を染める赤が、とても憎らしく写った



アポロンの定義




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アポロンは太陽神であると聞いて。マサキは蘭丸さんをアポロンだと思っていて、蘭丸さんは拓人さんをアポロンだと思っている。蘭丸さんに片思い中のマサキが蘭丸さんの思い人の拓人さんに嫉妬して拓人さんを勢いで殺してしまうお話でした。



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