(もっと夢中になりたいくらい・スコール×アーヴァイン)

用があってその部屋を訪れた。
部屋の扉の解除コードを入力し、ノックも声掛けもなしに中に入った。
そうすれば。
立ち鏡の前で、鏡と向き合って、櫛で髪を梳いていた。
茶髪の髪を、くしくしと。丁寧に。鼻歌まで聴こえる。気分よく髪の手入れをしている様だった。立ち鏡には人間一人分しか収まらない。

「………おい」
「うわっ!?……吃驚した、スコールか。一体何時の間に部屋に入ったの?」

用があるのはその立ち鏡の前で髪を梳いている幼馴染だったので、声を掛けた。櫛を動かす手は止まり、鏡から、此方へ振り返る。長い茶髪は、そのままだ。

「皆で話す事があるからあんたも来い」
「それって急ぎの話〜?これ、もうちょっとで終わるから待ってよ〜」

そう言って櫛で立ち鏡を差すアーヴァイン。含みのある様な笑顔を見せて、もうそんなもの通用しないのに。特にあんたの場合は。色々あって。
だが返事をする前に、アーヴァインはまた立ち鏡の方を向いてしまった。そうして髪を摘んで、丁寧に櫛で梳かす。長髪は手入れが大変なんだな。……いや、鼻歌を歌っていたんだ。手入れは楽しいのかも知れない。
しばし待たされる事になって、他にする事もないので、その髪の手入れを見る。長い茶髪にすっと、櫛が入っていって、梳かされる。するするとスムーズだった。櫛がぶすりと、違和感なく入っていって、髪を整える。
さぞ。

「そんなにじっと見つめられても困るんだけど〜?」

そんなにじっと見つめていた気はしないのだが、アーヴァインが言うにはそうらしい。
立ち鏡の前で髪を整えていたが、急に俺の方を振り返って、櫛で人を差す。行儀が悪い。長い髪は鏡に映り切っている。
含みある笑顔を見せて。

「何なら、スコールが梳いてみる?」

……一体なんでそんな発想に。
時間のかかる幼馴染を待っているだけだと言うのに。からかうなだとか、あーだこーだ言う言葉が思い付くが、口は開かなかった。ただ、誘われたままに。
人を差す櫛に、触れて見た。そのままアーヴァインの手から櫛を受け取って、握る。

「冗談だったのに。でもやってくれるなら、優しくしてね〜?」

何て言って、俺に背を向ける。茶髪の髪がやってくる。櫛を強く握り締めた。全然違う用件で此処へ来たのに、気が付いたら何故か人の髪の手入れをする事になった。
黒い手袋で、その髪を掬う。手袋越しに触れて、軽かった。髪は軽かった。そこにさくっと櫛を差し込む。そうして流せば、何の抵抗もなく髪は梳けた。
柔らかい。
櫛が面白いくらい通って行って、柔らかい。そして軽いし。
同じ男でも自分の髪はもう少し硬い。
するすると。
柔らかさが此処まで来ると同じ男として突っ込みどころが満載だったが、するすると。
するすると。
櫛を通る。
櫛を通る。櫛を通る。櫛を通る。

「ちょっと〜、もういいよ〜?もう充分だよ〜?」

我に返れば、櫛を持つ手に手が被さっていた。アーヴァインが振り向いている。
髪が落ちる。
アーヴァインは笑っていて。含みある笑顔じゃなかった。何だか、困った、やり過ぎたと言う様な笑顔。から、にこっと笑って。

「すご〜く優しい梳かし方。その見かけに寄らず」
「……失礼だろ」
「褒めたつもりだよ」

全然失礼だ。余計な一言が失礼さを際立たせる。結果失礼だ。
失礼なアーヴァインは、にこっと笑いながら、俺の手から櫛を攫って行った。その事実に、一抹の寂しさを感じた。

「スコールのお陰で綺麗になったよ。ありがとうね?」

にこっと笑って。
俺は手の物足りなさを抑える。
アーヴァインは此方へと向きを変えて。

「で、皆で話す事って何?」
「……あ」

すっかり忘れていた。用件があったのに、違う事に気を取られ過ぎた。すっかり、忘れていた。
アーヴァインはヘアゴムで髪を結い始める。いつもの様に。そうやって俺の言葉を待っている。
忘れていた事を悟られないうちに、思い出した用件を話した。

「もう直ぐママ先生達の結婚記念日が近いが近いから、全員で何かサプライズのお祝いを用意しようって話になった。そのサプライズを何にするか、全員で話し合うからあんたも来い」
「えー!そんな重大な話はもっと早くに切り出してよ」
「待ってろって言ったのはあんたの方だ」
「そうだけど〜!」

ヘアゴムで髪を結い終えたアーヴァインが慌て始める。その茶髪はいつもの通りに。ふわふわと、一纏め。

「もう、早く皆の所へ行かなきゃ」
「歩きながら案を考えておいてくれ」
「そうする。知恵を振り絞ってすっごくロマンティックなサプライズ考えるよ」

そう言って、アーヴァインは歩き始める。俺もその隣を歩いて、二人で部屋を出た。向かうは話し合いに仲間の全員が集合している食堂だった。
廊下で、隣で歩きながら案を練るアーヴァインを横目で見て、その髪を見る。
手の込んだ髪は歩く度に揺れて動いて。
良ければ、もう少し、時間が欲しかった。

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