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「ねー」
「何だ」
「暇ー」
「これでも読むといい」

こちらを見もしない面堂が俺の頭をぽんとたたいて渡してきたのは薄い文庫本だった。
ぶすっとしながらも、この薄さなら読めるかもしれないとぱらぱら捲ってみる。
……無理。文字が小さすぎる。

「無理ーこんなの読めないー」
「読もうとしてないだろう」
「だって本なんてつまんねーじゃん」
「読んでから言え」

っていうか、おまえがずっと本読んでばっかだから暇なんだってばー。
と、仰向けに寝ながら本を読んでるこいつに言いたいけれど、思いとどまる。
そうだ、そもそも今日は部屋に来るなといわれていたのに無理言ってきたのだ。
だって、今日は、言わなきゃいけないことがある。
今日言わないとだめなのだ、今日!

「ねー、」
「何だ」
「その体勢って腕疲れない?」
「少しな…」
「ふーん…」

あーーー、違う、こんな意味ないこと聞いて読書の邪魔なだけじゃん、俺の馬鹿!
心のなかでこう言おう、とシュミレーションする。
よし、言おう…と口を開こうとするが、やっぱり勇気が出ない。
そんなことを何度も繰り返している今の俺は、傍から見たら金魚の真似でもしているように見えるだろう。
……そうだ…、突然言おうとするからだめなのかも。
すこし勇気をわけてもらおう。

仰向けになっている体に、そろそろと寄って言って胸の上に顎を置く。
面堂は全く気にもとめずに依然本を読み続けている。(まあいつものことだ)
あったかーい、ここでごろごろしてたい…とか思ってる場合じゃない。
「ねー、」
「何だ」
「キスして…」
活字を追っていた黒目が一瞬動きを止めて、文庫本が横にどけられた。
低い角度からこちらを見てくる目はなぜか逆に見下すようで、「欲しいなら来い」、とでも言っているようだ。
なんでこいつこんな余裕なんだよ、ずるいよなあ、と思いながら頭をあげてそっと近づくと、片手で後頭部の髪をくしゃっと梳かれて、そのまま引き寄せられる。
触れるだけですぐ離されそうになった温かい唇を、噛むようにして引き止める。
すこしびっくりした気配が感じられたのは一瞬で、こちらの意図を汲んだ舌が遠慮なく口内に入ってくる。

「ん…」

はじめてしたときから何度しても思うけど、こいつ…異様にキスが上手い。
キスだけで気持ちいいってどういうこと。

「は……」

しばらくしてゆっくり離された唇と唇の隙間を、熱い息が行き交う。

「…あのさ…」
「どうした」
「……たっ…」
「た?」
「…………タコっ…!」
「…はあ?」

(だめだ、面と向かっていうなんてやっぱり恥ずかしすぎる…っ!)











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