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「っつつ…!」
「染むか?」
「はあ、少し…」
「しかしずいぶん派手にやったのう」

前の時間、終太郎の属する2年4組は体育の授業だった。種目はラグビー。
英語や数学の授業でさえ何故か怪我人の続出する2年4組である、ラグビーとなればどんなに重傷者が出ようか…と思いきや、保健室は随分と閑散としている。訪れたのは終太郎一人だった。

「何度も言いますが、ラグビーで怪我をしたわけじゃないですからね!」
「しつこい奴じゃな。授業の帰り際に猫の尻尾を踏んで怒ったそやつに引っ掻かれたのだろう。もう三度は聞いたぞ」

ラグビーで怪我をするような軟弱な男だと思われてはたまらない、と終太郎は考えているようだった。
しかし保険医としては尻尾を踏んだ猫にここまで派手に引っ掻かれるというのもそれはそれでとんだ阿呆だと思えなくも無いのだった。

「……よし、これでいいじゃろう」
「これは…」
「そこの大きな傷にだけはガーゼを貼っておいた。細菌が入ると膿んでしまうからな、今日一日はがすでないぞ」

左頬の大きなガーゼをそっと触りながら
「かっこわるいなあ…」
などとぶつぶつ言っているのを、サクラは組んだ足を組み替えながら面白そうに見つめていた。

「……そうだ」

思い出したように呟いたサクラを、終太郎が見あげた。

「女生徒に聞いたぞ。今日誕生日だそうだな、おぬし」
「は、はい! 光栄です…サクラさんに誕生日を覚えていただいたなんて」
「どうだ、誕生日プレゼントにいい思い出でも欲しくはないか?」
「え……?」

立ち上がったサクラのただならぬ気配に、終太郎も回転椅子をガタンといわせて立ち上がった。
バランスの崩れた椅子が、横に倒れる。カラカラとキャスターが回転運動を遅めていった。

「せ、先生…?」

各クラスの保険日誌の置かれている机に後ろ手をついた終太郎の両足の間に、タイトスカートを履いたサクラが片足を割りいれる。
いま自分で手当てしたばかりの傷の残る顎をくいと持ち上げて、蠱惑的な瞳で見つめた。

「どうした、いつもはませたことを言うくせにいざとなると可愛い反応をするもんじゃのう」

意地悪に薄く笑うサクラの大胆すぎる行動に、終太郎は動揺しすぎて言葉が出ない。

「な、せ、先生、なにをっ」
「…何だ、おぬしがいつもしたがっていたことだろう…?」

ゆっくりと顔を近づけると、面白いように終太郎の顔が赤くなっていく。
状況が掴めずおろおろして泣きそうになっている終太郎を見て、サクラが小さく笑みを零した。
ついに触れそうなくらい顔が近づいて目を閉じた終太郎の額に、ぴん!と指を弾いた。

「いてっ」
「ふふ、冗談じゃ、馬鹿者!」
「――」
「今日はおぬしの誕生日であると同時にエイプリルフールじゃ、忘れたか」

痛む自分のおでこに手をあてて呆然とした終太郎が、3秒くらいたってからようやく生きた心地で息を吐き出した。
その頬は騙されたことに対する恥ずかしさかまだ動揺がひけないのか、やや赤く染まったままだ。
ため息をつきながら呟いた。

「冗談で済みませんよ、先生…」

















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