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「じゃーんけーんぽん!」

パー、パー、パー、パー、(中略)、パー、パー、パー……、のなかに一つだけ、グー。
ラムは小さく握った自分の手を苦々しく眺めた。

「はい、ケーキ係はラムね!」
「ちゃんと、お前の手作り以外!のケーキを持ってくるんだぞ、いいな!」
「うるさいっちゃねー…」

手作り以外と釘を刺されてしまったからにはとりあえずどこかで買ってくればいいか、いやでも、こんな大人数分のケーキ、買ったらそうとう高くついてしまう。どうしたものか…と考えながら、とりあえず街を俯瞰しつついいアイデアを探そうと足を浮かせたラムの背にあたるの声が追い討ちをかけた。

「足作りもだめだからな!!!」








「ランランラン♪」
「ランちゃーん、何作ってるっちゃ?」
「ラムちゃん、遊びに来るなんて珍しいわね。レイさんにあげるお菓子に決まってるじゃない!」
「そんなの分かってるっちゃ。ランちゃん、ケーキ作れるけ?」
「もちろんよ」
「今日、終太郎の誕生日だっちゃ。ついでに終太郎のケーキも作ってあげるっちゃ」
「ええ〜? どうしてランちゃんがレイさん以外の人のためにケーキ作らなきゃいけないの〜?」
「だってうちもつくるのめんどうくさいっちゃ。どうせついでだから、余ったのでつくってくれればいいっちゃ」
「仕方ないわねー、もう…」

突然ガラスの割れる音が響いたかと思うと、何故か部屋の中に巨大な豚のような牛が出現していた。

「らむ!」
「げっ……」
「レイさん! ちょっと待ってね、もうすぐおいしいチョコクッキーができるから!」
「らむ
「しつこいっちゃ、アホ牛! はなれるっちゃーー!」
「レイさん、ラムなんかに構って…………おいラム、読めたで…」
「えっ…」
「おんどりゃ、わいに他の男のケーキ作らせてレイさんとの仲引き裂こうって腹やろ! この腹黒が!!」
「ち、違うっちゃ、それは誤解…」
「らむ
「らむ、レイさんを誘惑しおってからに〜!!!!」
「ちょっと待つっちゃ、この状況を冷静に見るっちゃ!!」

とにかくレイの気を他に引こうとしたラムは、そこらにあったお菓子の材料らしきものを手当たりしだいになるべく遠くに投げつけた。
板チョコ、粒チョコ、マシュマロ、アーモンド、アラザン、グミ…瓶やボールに入ったものもそのまま投げつけたので、部屋はまたたくまに悲惨な状態になりはてた。

「ラム、お前、わいからレイさんを奪うに飽き足らず部屋までめちゃくちゃにするとは何事じゃい、わいに何の恨みがあるんじゃい!!」
「恨みたいのはこっちだっちゃー!!」
「あっ、それは…今からクッキーにかけるチョコ……!」
「えっ」

しかしもう遅い、湯銭されたホワイトチョコがたっぷり入ったボールはちょうどラムの手を離れて放物線を描き始めたところだった。

「ラム、面堂ん家でケーキ用意したからいらんとよ」
「早くパーティ会場に行きましょ」
「「あああっ!」」

2人(もちろんレイを除いたランとラムである)がそのボールの行方を目で追っていた先で、あまりにジャストなタイミングで玄関の扉が開いた。

「ダーリン、しのぶ、危ないっちゃ!!!」
「ん?」
「どうしたんですか、ラムさ―――」

べちゃっ!

ラムの声に何事かと外から首を出した終太郎の頭に、見事にチョコレートがぶちまけられた。

「「…あ……」」
「よ、面堂、最高の誕生日プレゼントだな」
「面堂さん……大丈夫?」
「……」
しばらく動けずにいた終太郎がようやく乱れた前髪を直しながら必死で平静を保とうとしたが、ぼたぼたと垂れるチョコレートで髪はいっこうに元に戻らない。
「……こ、これしきのこと…」
「髪全然直ってねーぞ」
「いたいけなレディーの過ちを責めるわけにはいきますまい…」

「わ、悪いっちゃ、終太郎……でもこれはレイのせいで……」

どうしたらいいかとあわあわしながら苦笑いで言い訳をしていたラムが、はっと気付いたように後ろを振り返った。

「そうだ、レイ! 終太郎に謝るっちゃ!! …って、レイ?」

部屋にはチョコが台無しになったことに落胆しているランと、そのランに擦り寄っているあたるしかいなかった。
どこにいったのだろうか…と部屋を見回していたラムの背後から

「うわあっ!!!」

どたっと何かが倒れる音と終太郎の悲鳴がした。
急いで振り返ってみると――――

「きゃあっ面堂さん!」
「や、やめろっ気色悪い!!!」

レイが押し倒す勢いで終太郎の顔をなめていた。

「なにやってる…ちゃ?」

予想外の展開に一瞬ついていけないラムだが、すぐに状況を理解した。
以前にも、ランの唇についた食べかすを取るために何の気なしにキスをして大騒ぎを招いたことのあるような男である。
甘ーい匂いにつられて本能の赴くまま何も考えずチョコを舐め取っているのだろう。

「レ、レイさん…ランちゃんよりそんな男がいいの…!?」
「ランちゃん、落ち着くっちゃ、あれは……」

とはいえ、さすがに絵的に危険だ、とフォローしようとしたラムも口淀んだ。
逃げようともがきながら喚く終太郎をレイが腕で押さえ込んでその顔に舌を這わせる。
途方もない馬鹿のくせに人型のままだと無駄に顔が良すぎるし無駄に無表情なレイのせいでなにやら怪しげな雰囲気が漂ってしまっている。
すぐ横にいるしのぶは鼻血を流しながら携帯で写メをとっている。
そしてついに…

「「「「あっ……」」」」

やってしまった。
レイが終太郎の唇についたホワイトチョコをペロリと舌ですくって、味のしみた下唇を吟味するように舐めて噛むように挟んだ。

「レイ…お前…」
「レイさんってば…っ」

さすがにドン引きしたランとラムだったが、一番動揺したのは他でもない終太郎である。
「――――っ!!!! な、なな、なんてことを…っ!!」
女性も数名いる前でこんなことをされたのは彼にとっては最悪の屈辱だろう。
これ以上ないほどに顔を紅潮させて、涙をぽろぽろと零しながらごしごしと口元を拭った。

そんな終太郎の様子をかわらない表情で眺めていた、と思ったら。

「……ぶもっ」

巨大な牛になったレイが終太郎をかついでランの家を出てどこかへ行ってしまったのは一瞬の出来事だった。














「……今何が起きたの、ラムちゃん」
「……さあ、うちにもよく分からないっちゃ…」
「……おいしそう、だったんだろうな」
「とりあえずしのぶとダーリンはは鼻血拭くっちゃ」
























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