終子3 | ナノ









先日のことだ。
ラムがまた「ダーリン、うちとデートするっちゃ!」とかたわけたことを抜かして変な機械を出してきた。
ラムの出す機械だからやっぱり欠陥品で、俺がちょっといじっただけで壊れやがった。(断じて、俺が壊したわけではない)
そのとき起こった爆発に巻き込まれて何故か面堂が女の子になってしまった。(断じて、俺のせいではない)
断じて違うのに、勘違いした面堂は俺に対して怒りをぶつけてきたのだ。
俺だってラムのせいで日頃からとんだ目に会わされている哀れな被害者だというのに、だ。
まあそんなことは今更嘆いても詮のないことである。いまここで問題にすべきは、その女の子になった面堂のことだ。
以前にも数回、面堂が女の子になった姿は見たことがあったのだが、その際はやはり元はあの面堂なのだという強い観念があったのもあり、俺が大好きな女の子という種族にカテゴライズされるとはいえ、特に食指は動かなかった。
まあ、当然である。だって一時的に体のいくつかの部分がかたちを変えただけで、その実は面堂終太郎という可愛げのない、というか憎たらしさと陰険さのみで構成されているようないやらしい男なのだから。
それが、この前はどうしたことか、――今かんがえても自分はどうかしていたのかと思うような行動をとってしまった。
頭ではきちんと、『こいつはあの面堂なのだ』と分かっていた。
……いや、分かっていたのだろうか?
分かっていたのなら自分があんな行動に出るはずがない。
でもいやしかし、だって、だって、確かに目鼻立ちが整っているからそれは、性別を変えたってやはりそれなりの顔にはなるというのは理解できるが、そのへんにいた男子達軒並みひきつけるほどだと見せ付けられると意識せざるを得ない、し、何の気なしに掴んだ手首とか手がまさかあんなに細くて小さいと思わないし、近くに寄ったらまさかあんなにいい臭いがすると思わないし、まさか抱きしめたらあんなに柔らかいくて折れそうに細いと思わないし、まさかあの髪があんなにサラサラだと思わないし、まさかこのまま離したくないなんて思うと思ってなかったし、――――っていうか、まさか、あそこまで拒絶されないと思わなかった。
そうだ、なんであいつこそ拒絶しなかったのだろうか?
いつ放せばいいか分からなくて、っていうかできたらずっと繋いでたいとか思って放さなかった手は、やはり、向こうも放そうとしなかったから繋がれていたのだ。

あれからもう一月くらいが経つが、あいつとの関係に特に変化はなかった。
ただ、なんとなく授業中に気がついたら横顔ばかり眺めていたり、なんとなく朝教室に入って一番最初に姿を探してしまったり、なんとなく目で追っている自分がいて、やっぱり調子が狂う。
対してあいつは全然気にするそぶりも見せない。
ちらりと横目に面堂の様子を伺う。
優等生よろしく、背筋を伸ばして綺麗に板書をとっている。まったくもって普段となんら変わらない面堂だ。

(……面堂、どう思ってんだろ…)









     ☆ ☆ ☆


    







先日のことだ。
ラムさんが健気にも怠惰な諸星の性格を改善しようと出した機械を、こともあろうに当の諸星が壊した。
僕はラムさんを応援するべくその様子を見守っていたのだが、そこで起こった爆発に運悪く巻き込まれ、気がついたら女になっていた。
本当に、諸星の馬鹿の近くにいるとロクな目に遭わない。ロクでない目に遭ってばかりだ。
今度こそ諸星という地球上、否、宇宙上最悪の厄災の元凶を絶ってこの世に平和をもたらさんと刀を振るったのだが、いかんせん普段と勝手の違う体では相手にならず、何故か成り行きで逆に諸星に助けられるという展開になってしまったのだった。
そこまではまあ、良かったのだ。
ここで前提として語らせてもらうが、諸星あたるという人間は見るからに貧相で冴えない風貌である。加えてその中身も実に意地汚く理性・知性に欠け、こと食と色に関しては見境をなくすという軟派でいやしい最悪な性格をしている。
特に女性に対する執着には酷いものがあり、自他共に認めるフェミニストの僕でさえそのありさまには閉口せざるを得ない。
……のだが、件の先日の場合、僕は女性の立場で奴に接することになった。
確かにあのとき僕は女の格好をしていた。(いやこう言うと何か勘違いされてしまいそうだが、もちろん趣味などではなく不可抗力で、である。上記参照。)
していたがしかしそれは見目かたちだけのことで、もちろん、中身まで女性になったわけではない。
そんなことは当然、僕も奴も分かっていたはずだ。
だというのに、諸星は完全に僕を女の子として扱っていた。
まあ、冷静に考えてみよう。あまり現実的な話ではないが、たとえば、だ、たとえば、諸星が一時的に可憐でいて儚い一輪の華のような女の子に変身してしまったとしよう。ふむ、確かにまったく現実的でない。しかし続けよう、そしてその可憐でいて儚い一輪の華のような女の子になった諸星が、知らない男連中に囲まれて非常に困っているのを目撃したとする。そのとき僕は何を考えどのような行動を取るだろうか?
果たして、「あれはいくら可憐でいて儚い一輪の華のような美少女とはいえ、あのアホの諸星だから放っておこう」と素通りできるものだろうか?
いや、僕にはできない。おそらく考える前に体が動くだろう。
そう考えると、あのときの諸星の行動はそうおかしいものではなかったといえる。
そうだ、そこまではいいのだ、そこまでは。
問題はその、後である。
今考えてもどうしてあんなことになったのかまったくもって分からない。
どうしてあの諸星あたるに一瞬でも胸が高鳴ってしまったのか、理解不能だ。
思い出すだけで耳の先まで熱くなる。もちろん不甲斐ない自分への羞恥で、だ!
いくら雰囲気に流されたとはいえ、もしあのとき邪魔(という言い方もおかしいが)が入っていなかったら何がどうなっていただろうかと考えると………………いや、やめよう。
しかし一つだけ自分自身に言い訳をすると、その、体を思い通りに動すことがままならない状況で人ごみから連れ出してくれたり、倒れたときに庇ってくれたりと、諸星の女性に対しての態度はとても紳士的であったから、普段とのギャップですこし戸惑っただけというか、見たことのない一面に少し驚かされたというか、その、……って、何で僕が奴をほめるようなことをつらつら述べなきゃいけないんだ!

とにかくあの日以来、変に奴が気になって仕方ない。
同じクラスの隣の席だからいやでも顔をあわすし、突然避けたりして気にしていると思われるのも嫌だからおくびにも出さないように努めている。
しかしそれもまた奴を変に意識している証拠に他ならないので自分が嫌になるが…。
一方諸星はあいもかわらずのらりくらりとだらしなく無節操に女性に迷惑をかけてへらへらしている。
もちろん先日のことについては触れてもこないし、まるで何もなかったかのような態度で接してくる。

ちら、と隣の奴を横目に盗み見る。
いつもなら教科書の後ろに隠して(いるつもりで毎回隠しきれていないが)いかがわしい本を読んでいるのに、今日はやけに思いつめたような表情でどこか遠くを眺めている。
こんな顔もするのか……あの日から、諸星あたるという人間がよくわからなくなってきた。
視線を戻して、自分の唇にそっと指を這わす。
……もしあのとき触れていたらどうなっていたのだろうか…。

(……どう思っているんだろうか、奴は…)











(お題:もうずっと君に恋してる)







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