コン。 何かが窓を叩く音。 風じゃない。静かな夜だ。 コン。コン。 読んでいた本を置いて、音のする窓のほうへいく。 カーテンを開くとガラス越しに予想通りの人物の唇がおりている鍵を指して何か言っている。 もちろん何も聞こえないのだが、その唇の動きを見ると、『は』『や』『く』。 ……なあにが「はやく」だ。まったく、厚かましいやつだ…。 呆れながらもつい鍵を開けてしまう。僕も人が良いな。 「よーっ、面堂」 「また来たのか…」 心底迷惑そうに言ってもこいつには通じない。 笑いながら部屋に入り込んでくる様子はまるで当然かのようで、非常に厚かましい! しかしどうやら靴を脱いで入ることだけはようやく覚えたようだ。 「あそぼうぜー」 「僕は読書をしてたんだ。きさまにかまってる暇はないっ」 まったく、迷惑なことこのうえない。毎回毎回、鍵をあけた10秒後には自分の行動をひどく後悔するのだがあとの祭である。 『家はうるさくてゆっくりできん』とかなんとか言って夜に時々部屋に来るようになった。 だからといって僕のうちでゆっくりされても困る。し、ラムさんと一つ屋根の下にいる生活のどこに不満があるのか僕としては甚だ疑問だ。 来るのも毎日というわけではなく、2・3日続けて来たと思ったら2週間ぷっつり来なくなったりする。 本当によくわからん奴だ。 とりあえずシカトを決め込もうと、さっき置いた本を手にとって机に腰かける。 …………。 あれ、そういえば栞を挟み忘れたな……えと、どこまで読んだだろうか……。 ……………。 ……………。 なにやら背後でカチャカチャとうるさいな…。 ………。 ……。 いや、無視無視、いまは読書の時間だ……。 …………。 ………。 …………。 「うるさいっ!!!!気が散るだろうがっ!!!!!!」 「よしっ、せってぃんぐ完了!」 明らかにいい予感はしない言葉が聞こえてきたのと、イライラが限界に達したのがほぼ同時だった。 「――…セッティング?」 「おー面堂、マリカーやろー」 「ま、まりかー…?」 「コースケんちからwii借りてきてさー」 「うぃい…? なんだそれは」 「まーいいからいいから、やれば分かるって」 こっち来てこっち、とテレビの前に座りこんだ諸星がすぐ隣の床をぽんぽんと叩いた。 「誰がやると言った!」 「いーいーじゃーん、せっかく持ってきたんだからさー」 「それはきさまが勝手にしたことだろうっ!」 「つれないこと言わないでやろーよー終ちゃんー」 「何が終ちゃんだ、気色悪い! 僕は読書をするのだから邪魔をしないでくれたまえ!」 「ふーん……」 やっと黙ったか、と思ったら、先程までなかったどこか嫌みな笑みがその表情に浮かべられた。 「俺に負けるのがそんなに怖いか? 面堂」 「なっ………!!?」 何を馬鹿なことを! 気が付いたら諸星のすぐ隣に座りこんでコントローラーを握っている自分がいた。 「成敗してくれる!勝負だ諸星!!」 ☆ 「うりゃっ」 「ぬああっ! な、何をした諸星!!」 「ただの赤甲羅じゃねーか」 「卑怯だぞ諸星!!」 「アイテムを有効活用することのどこが悪いんじゃい。あ、イカスミだ、ほりゃっ」 「なんだこれはっ前が見えないぞっ諸星っ!!」 「だからイカスミ使うよって言ったじゃん」 「くそ…ゆるさん……っ見ていろ、すぐに追い抜かしてくれる、このっ!!」 「あ、そこ落ちやすいとこだよね面堂くん」 「くあああああ」 ☆ 「見ろっこの軽やかなカーブを! 「あ、すぐ後ろだ俺」 「ふん、抜かせるものなら抜かしてみろ……ってなんで僕がコースアウトしてるんだーーーっ!!」 「ゴメン、ドリフトで吹っ飛ばしちゃったみたい」 「ふぎいいいいい」 「だからピーチなんてやめたほうがいいって言ったのに」 「うるさいっ…亀みたいな化け物の操縦なんて僕には似合わない…!」 ☆ 「…もしかしてこの箱はぶつかっても死なないのか?諸星」 「は? もしかしてアイテムボックスのこと?」 「これがアイテムだったのかっ諸星!!」 「今更!?」 「隠していたとは卑怯だぞ!!!今まで避けて走っていたぞ!!」 「それはそれですごいな」 ☆ 「ぐぬぬ…この僕が88連敗だと…」 「ふあーあ……じゃあキリもいいしこのへんで…」 「きさまっ! 勝ち逃げする気かっ!!」 「何わけわからんことを……今何時だと思ってんだよ、いーかげん寝かせろ」 「だめだっ! 僕が勝つまで寝かせないっ!!」 「あー、もー…………」 そうして夜は更けていくのであった…。 ☆ 「おはよー、あたるー」 「あぁーおはよ。ふあーあ」 「朝から締まらん奴だなあ」 「寝不足なの、寝不足」 「何してたんだよ」 「お前に借りたマリカー」 「ああ、面白いだろあれ」 「面白かったけど」 「けど?」 「……自分からコース落ちるし自分の置いたバナナの皮で転ぶしすぐ逆走するし自爆するしドッスンとかワンワンに必ず潰されるしでなかなか勝ってくれなくてほんと困った」 「………あたるお前…致命的にゲーム音痴だったんだな」 「俺じゃねーよ」 「え、誰?」 「………………ふあーあーあ。」 |