──窓を叩く雨音を聞くと、昔のあの日を思い出す。




風邪を引いて寝込んでいた私を【彼】が看ていてくれた昔のこと。あの日も静かに雨が降っていた。




「……また」




いつも「消去」まで指が進むと、硬直したかのように固まってしまって「はい」を選ぶことができなくて。


まだお互い幼かった淡い初恋に過ぎない。


きっと彼のほうは私のことなんて疾うの昔に忘れ去ってしまっているだろうし、その携帯電話に私の居場所はもう無い筈。


だから消してしまえばいいのに。きっともう番号やアドレスも変わっているに違いないのに、未練がましく繋がりを絶てない私は本当に臆病だと思う。





喉の渇きや痛さに顔をしかめて一瞬、視線を逸らした。

唾を飲み込もうとすると棘のような其れが感覚を鈍らせる。



だけれど間を置かずにけたたましく鳴り出した其れ。ディスプレイに映し出された名前を見て大きく瞠目し瞬きを繰り返す私。


「夢じゃないか」と疑う反面、迫り立ててくる気持ちに焦燥を浮かべながら震える指先で受話マークをタップした。




「……もしもし?」






早鐘を打つ心臓。如実に緊張を物語る其れに起因して、上手く言葉を紡ぎ出せなくて。



だけれど次の瞬間鼓膜を撫でた懐かしい【彼】の声に、緊張という名の氷が溶かされて眦(なまじり)から温かい涙が流れ、頬を伝った。









忘却と記憶の狭間で
いつだって切なくさせるのは貴方 ( 2014.6.3 )




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