街を彩る煌びやかなイルミネーション。眩い光を放つその内の一つである建物の中に居る自分。 手にはトレイ。そして呼ばれるたびに向かうのはレジカウンター。 「いらっしゃいませー!!」 ‥‥街中がクリスマス一色で賑わいを増すこの日ですらバイトですよ、すみませんね独り身で。 ただ決して悲観ばかりしている訳では無い。 寧ろやることがあるほうが気が楽だし、仕事に没頭していればそんなつまんない事を考える余裕なんて無いんだから。 「お二人様ですか?お煙草は吸われます?ああ、かしこまりました禁煙ですね。お席まで御案内しますのでどうぞー」 ただちょっと、カップル客相手にはちょっとだけ無愛想になっているような気がしなくもないけれど。 ‥‥そんな気がするだけだし。 だから別に職務怠慢だとかそんなんじゃないし。 て言うかクリスマスの喫茶店って客の半数以上がカップルだから、正直開き直るしか無いよね。 「オーダーお願いしまっす」 「おー」 「ブレンド一つにモカ一つ、それとデミオムにカルボナーラ」 「了解」 慣れたもので今では噛まずに全てのメニューを網羅し言うことができる。 さすがに最初は無理だったけれど。 接客業って嫌いじゃないし、興味のあることは覚えやすい質だったようで助かった。 厨房で調理道具を操るオーナーに向かってそう言う瞬間に、少しだけ視線も上乗せしてみたけれど。 ‥‥やっぱり彼は気付いていないようで料理に奮闘中。 片方の眉尻を下げて溜め息にもなり切らない一息を吐いて、私も直ぐに店内へ戻った。 「(この想いが実る日は、)」 果たしてやってくるのだろうか‥‥なーんて。 ───パタン、ロッカーの扉を閉めて更衣室をあとにする。 更衣室と言えば聞こえは良いかもしれないけれど、実際のところ簡易的な造りでそんなに立派なものではない。 上と下から覗こうと思えばバッチリ見えるし。‥‥まあ、見ようとする輩が誰も居ないから然して問題にもならないのだけれど。 「お疲れでーす」 「おー」 「お先に失礼しま、「ちょっと待ってろ。軽く作る」 「‥‥‥‥え」 思わず物凄い勢いで振り返ってしまった。 そんな私の目は大きく見開かれ、阿呆だと主張するかのように口は半開き。 そんなコッチの様子なんて微塵も意に介してなどいないらしく、オーナーは華麗な包丁さばきで次々に野菜をカットしていく。 「ちょっ、オーナー!?」 「座ってろ」 「‥‥あい」 その手際良さに惚れたと言えば「軽い」と思われそうだけれど。 その鋭い眼差しだとか。 一品一品に向けられる、込められる平等な愛情だとか。 ‥‥上手く言えないけれどそんな姿そのものに惹かれたんだと思う。 あまり音を立てないよう、気を配りながらカウンター席に腰を下ろす。 思えばこうしてオーナー自らの手料理を振る舞ってくれるのなんて、私が新人として入りたての頃以来かもしれない。 あのときに口にした料理の美味しさは自分史上伝説と化している。 それからずっと「もう一回食べたい」と思ってはいても、私から頼むなんて図々しい真似ができる訳もなく今日に至る訳で。 何度お客として紛れこもうと思ったことか。 その度に、見付かった瞬間の言い訳が思い付かなくて断念してきた今までの自分に一言エールを送りたい。 安心して、また食べられるから! 自分史上最高の味にまた有り付けるから!! 「───ほらよ、お疲れサン」 「わあ‥‥!ありがとうございますっ!」 コトリ、目の前に置かれたのはハヤシライスとサラダのセット。 直ぐ様「いただきます!」───声高らかに手を合わせてそう言うや否や、スプーンを握って湯気をのぼらせるハヤシライスを口に運ぶ。 その瞬間に口の中でとろける味わいに天にも昇りそうな心持ちだった。 「お前、幸せそうに食うよな」 「だって美味しいんですもん!」 「ふーん‥‥そりゃ良かった」 「オーナーはなにか欲しいものとか無いんですか?お礼と言っちゃアレですけど、お返しになんか‥‥」 「なあ」 「ハイ?」 全力でハヤシライスにがっつきながらチラリと視線だけで彼を見つめる。 今日ほんと、カップルばっかでも嘆かないで頑張って良かったよ。 リア充には程遠いにしても、仮にもこうして好きな人と過ごせるなんて幸せ過ぎてどうしよう!! 「今日来たってことは、狙ってもいいわけ?」 「何を?」 「お前を」 「‥‥ハイ?」 ぽろり、意味を理解した私の手からスプーンが滑り落ちた。 Thinking of you with love at Christmas. クリスマスに始まる恋愛ってのも、アリなんじゃない? ( 2013.12.13 ) |