森と君と | ナノ
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 1.迷った木々のなか



「触らない方がいいですよ」

突然だった。
岩のほうへ進みかけたセイの背後から、少女の声がぽつりと聞こえたのだ。

内心びくびくしながら見ると、色白で、ふわふわの背中までの黒髪で、黄色いワンピースを着た、儚げな少女が微笑んでいた。
いつの間に現れたのだろうか。足音ひとつ、感じなかった。

「あ……やあ、きみは」

「その水、けがれたものには、害になりますから、触らない方がいいですよ」

まずは挨拶をしようとしたが、スルーされてしまった。
聞こえていなかったのかもしれない。今、彼女はとにかく、伝えたいことの方が重要なようだった。セイも考えを改める。

「それは、ぼくが、けがれたものだと言いたいのですか」

だとすればあまり、いい気はしない忠告だ。
彼女は黒髪をふわふわ揺らしながら、ぴょんと跳ねた。それから、いーえ、と笑った。


「まさか。話をよーく聞いてください。今ここで、冷静な判断も出来ずに悪い部分だけ取り上げ、早とちってぎゃんぎゃん怒るのなら、あなたもおろかで低俗ですわ。つまり、ご自分が可哀想な立場が欲しくて仕方ないバァァカ! まだ幼いから、ま・だ、可愛いげがありますが」 


「いや、幼いって……ぼくは、10歳です。きみとそんなに変わるようには見えませ、あ、じゃ、なかった。初対面の人を、けがれたなんてなぁ」

つっこむポイントを間違えた気がしたが、セイはそれしか言えなかった。

「だーかーら、私はまだ、はっきりとは、言っておりませんって。ただ『用心には越したことがないですよ』と言いたいのです。ただの親切心ですよ?」

うふふふ、と彼女は笑った。
「初対面でもないですし」
「え?」

「あ、いーえ、わからないなら気のせいかも。私、フォルグネーレです。フォルグ様と呼んでも良いですよ、セイ」

「どうして、ぼくの名を……」

「私はすごいからです。この場所のことなら、よく知っています」

「博識なんだ」

「……それはなんか違う」
「あ、そうだ、きみのいう、けがれたものって、なんなのですか」

「話の切り替えが早いですね。そういうのは、嫌いじゃないです……私がそう、いうわけではありません。この地域の、今となってはご老人の方々がそう呼ぶのです。だからこの地域の方には、てっきり、そう例えて差し上げるべきかと思っていました。私はむしろ、一番清らかだと思っているくらいですわ」

「清らか? なんだか正反対ですね」

「ええ。それについて、お教えし……あー、でも、10歳にはやっぱり難しいでしょうかねぇ」

「きみだって……」

「私は、あなたよりと・し・う・え。あなたに見える私の見た目は、後付けです」

「見た目は、後付け?」

よくわからないという風に、ゆっくり繰り返すと、フォルグは、また、穏やかに微笑んだ。

「あなたが見るものは、あなたが決めている姿なの。見させてもらってるんじゃなく、あなたが見ているんだもの。まあ、実年齢は言いたくありません」

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