▼ 9.寄り添うように舞い降りる
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それは立派な研究所だった。後にドゥロロと名乗る前の少年は、ある日突然、そこに現れる。
彼は玄関を潜り、易々と鍵を開けて中に入って──本棚などを挟んだ一番手前にある木机に座っていた女性に近づくと、声をかけた。
「──あなたは、大樹の、そして森の研究をなさってるそうですね」
それを聞き『子どもの来るような場所ではない』とどこか、見下した視線の研究者の女性は戸惑いながら答える。
「──ええ、そう、だけど、きみは誰?」
どうやってここまで入ったのかは、もしかしたら他の研究員の知り合いの子どもかもしれないなどと考え、後回しにした。
彼は淡々とそれに答える。
「ぼくは──名乗る名はありません」
「どういう意味? それに、ここがどういうところかなんてあなたに──」
むっとしたまま、そこまで彼女が口にしたときだ。
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