森と君と | ナノ
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 4.太陽を、願う



大事なものは、手に抱えてる、わずかなものじゃなく、いつも目をそらしてきた、引き出しの中

    4

この町は、風が強いところでしたが、町を囲む木々は、たくましく、一本も折れずに、町を守ってくれていました。

そこは深い森になり、そして、いつしか、神のような、信仰の対象になりました。

しかし今の、信仰が出来るより、少し前の――かつての、大伐採の歴史の再現を、恐れてか、一番長生きの、森の主は、人が、立ち入ることだけは、許しませんでした。

人々も、町の平和、安定と引き換えに、それを約束としました。
森の主は、それでもうっかり踏み入った者の、あるものを、消しました。

『誰かに《あること》を伝えるための何か』

のようですが、具体的にはわかりません。

ただ、人間が一人で起こせることは限られている。そう、考えていらっしゃるようです。

――しかし、中には、その『罰』を逃れることを許される人々もいました。
彼らは、森に立ち入ることを、禁じられていません。
かつて森からの罰を一度受け、脱け殻のようになった者、いくらかの役職、人体のものとは別に、ある血が流れる種族などです。

彼らは、他の人々に混じって暮らしていましたが、争いは起きませんでした。

その森の力に支配された町では、他の人々も、彼らも、同じように、自身の感情にも、他者への感情にも鈍く、本心に、どちらも、ほとんど、気付くことができなくなっていたのです。

それは、それだけ『《あること》を伝えるための何か』を奪われた者が、多く存在することでもありました。



「……まさか、もう」

病院からの、セイが行方不明という知らせに、ナリエは目を伏せた。
泣くことも出来なかった。肩までの髪をぐしゃぐしゃと掴んで、しゃがみこむ。どうしよう、どうしよう、どうしようどうしよう。
考えてもわからない。

指先の感覚が、冷えて、なくなっていくようだった。行き先だけは、見当がついている。
しかし、それを完全に止めることは、彼女には、不可能に近かった。

頼れる者はおらず、いつでもそばにいることはできないし、働かねば生きて行けないのだから。


「そっちは――どうですか?」

きい、と音を立てて、後ろの戸が開いた。嫌な音なので、直そうという話も出ているが、集中していると、人の出入りに気付きにくいため、ナリエは気に入っていた。

どうやら、職員の一人が声をかけてきたようだ。
まだ、若い、利発そうな青年。最近入った新人だ。

「あら、お疲れさま」

「ナリエさんこそ……お茶をお入れしましょうか?」
「ありがとう」

――ここは、町を囲む森と、種族について等を研究する機関だった。
ナリエは、セイの、二人目の母だ。

ナリエは違うが、一人目の母は、セイの持つ血と同じものを持つ、ある種族の者だった。
いけにえ、に選ばれた彼女の遺志を継いで、ナリエはここを建て、研究に明け暮れている。
古い文献を集め、ときには他の機関と交渉、情報交換をし、解読を進める日々だ。
わかったことはたくさんあった。
伐採の歴史、大火事、人々が崇めた森の存在。
しかし、わからないことはそれ以上だ。

「……やはり、いけにえ、についてだけは、どこにも、載っていないわ」

ナリエが首を振ると、青年は、戸惑う顔をした。

「そう、ですか……ですが……」

「ええ、本当よ。あの森は、ひとつの生命。そして、その力を保つために、彼らの、ある種の血肉を、食している」

「彼らの……」

青年が唾を飲む。
ナリエは、我が子が、彼らの一人で、最後のいけにえであることだけは、言わなかった。

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