(過去作より201……2?4?)
わかってはいるんだけど、理解してはいるんだけど――それでも何度も、過去にとらわれて辛くなってしまうぼくは、バカなのかもしれない。考えてもしょうがないことが、いつも頭を過る。切り捨てられたら楽なのに。
「……はあ」
はじめて出来た高校の友人にスキーに行かない? と言われ、舞い上がっていたぼくは思わず、「スキーって、何?」と言ってしまったら誘われなくなった。
本人はともかく、周囲にはなぜか頭良さそう、とかいう印象で通っているぼくがこんなことを聞いたから、彼の気分を害してしまったらしい。
「めんどくさ……」
向こうも思ったであろうことを、呟いてみる。
これがまつりだったら、「えっ、知らないの? ななとくん遅れてるー!」とか、思いっきりバカにしながらでも、一応教えてくれたのに。
あいつと比べても意味がないけど。
そもそも、長い間幽閉されるとか、知り合いの知り合いが惨殺される事件に関わっちゃったとか、あまり、まともに物を買ったりはされなかったとか言っても無駄だとは思うが。
でも、ぼくはあまりに無知だ。
だから、周りは何でも持っているみたいで――
「はぁ……」
あとで調べて見ようと思いながら、腰かけていた席を立つ。
今は放課後。
小さな日常世界は今日も当たり前に平等。
だからこそ、会話も一般的な知識もいつも共有できる。はずで、だからこそ築かれるコミュニティ。
悪いのは、無知だったぼくの方だから、彼をせめてもしかたないのに。
自習用に選んだ教科書とノートを手にして、鞄に詰め、背負うと教室を出る。
「……重い、のかなぁ」
この程度が。
重いのか。
当たり前だ。
でも、ぼくにそんなことを言っていたら、まつりなんて――そう考えて、ため息を吐く。
いつだったか、まつりが言っていた。
まつりのような天才が、基本的な部分で知らないことがあると、わざとわからないフリをして、バカにしてるように見える……らしい。
うーん。そんなこと言われても、嘘をつくのは、なかなか難しい。
知らないことも知っていることも、誰にだってあるのにな。
「傷つけちゃったかな」
心の隅で、ぼくが悪いのか? と問いそうになるのをこらえて、頭を横にふる。
でも周りに、合わせないと。どうにかして頑張ろう。
あとで謝ろうか考えながら、廊下を歩く。
目の前から、誰かが、たたたたっと、走ってきて、避けようとしていたらぶつかる。
「すみませ、ぼーっとして……」
「あ、夏々都!」
顔をあげると、白いコートを着たまつり。
「帰ろー? ね?」
いつものように、淡々とそう言い、ぼくの腕を引く。
「……まつり」
「ん?」
「どうしてここまで」
ぼくが聞くと、買い物のついでと言われる。
店より学校の方が近いから、これから買い物に行くんだろう。
「今日何かあった?」
心配そうに聞かれて、ぼくは微笑んだ。
いつまでも、まつりにばかり頼って、慰めてもらっていちゃだめなことは、わかっている。
大したことないよ、なるほどね、よくあることだよ、なんて言って受け入れてくれる人は、居ないのだ。
強さがほしい。
ぼくが「そんなのなんてことないよー」と言えれば、いつか、誰かを勇気づけられるかもしれない。
本当は、一番ショックを受けているのは、ぼくだ。
他人には、ああいう話は耐えがたいというのが、ぼくはまだ理解しきれていなかったから。
よくある悲劇だと、思っていた。
もしぼく自身が、あの過去を今より受け入れられたら、強く、なれるだろうか。
そしたら、もう誰も傷つけないのかもしれない。
―END―