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さっそく、というか。
さっきまでの論文が頭を占めはじめて、混乱してくる。
うー、早く切り替えろ。
 頭を抱えたまま、壁にぴとっとくっつこうとしたら、いつのまにか隣に座っていたらしい、まつりに寄りかかっていた。じとーっと睨まれる。
今日のご主人様、すごく不機嫌なご様子。

「……きみって、挑発かと思いきや、真顔でこういうことするからなぁ」

「なにが?」

きょとんとしていると、ぐいっと押し返される。真面目にやってて怒らせる気がないってのがまたすごいよね、と言われた。よくわからない。褒められた気はしないが。

そういえば前にも何度かあった。
真面目に会話したのに、天然だとかどうとか、本編で、何人かに足を踏まれていた記憶が。

「そうだ。あとでお部屋の掃除、手伝ってくれるかな。血がそのままになってるし」

「わかった。でもなにか、まつりを怒らせたかな」

不安になって聞く。
まつりは、違うよと言った。どういうことだよ。
「まったく、きみは、この主人公に似ているよね。相手の言葉を間に受けて、それを待ち続けて」

たまに、聞かれる。
それじゃあ生きにくくないのかと。まあ生きやすくはないけれど、しかし極度に生きづらいわけでもない。

 信じようが信じまいが結末は決まっていることが多いし、人は心変わりしやすい。

「待ってたら、来てくれる人だって居たよ」

「……」

「まつりは、ぼくが怪我をしてて、その辺に居たら、いつも慌てて来てくれた」

「そりゃあそうでしょうよ。きみって、危なっかしいし」


「他の、たくさんのひとだってそう」

「そう、かな。きみが傷つくのを待っていた人だって、きみを手に入れたいだけの人だって居ただろう?」

「ぼくが間違ったものを信じようとしても、まつりはいつも、迎えに来てくれた」

えへへ、と笑うと、まつりはさらに不機嫌になって、ぼくの頭をぐしぐしとかきまわした。

「おい、やめろ」

「っ……」

声にならない声で唸りながら、まつりがまたぼくを見なくなる。
寂しい。

「なんでさっきからそんな遠ざけるんだ」

「いいから、課題をやれ」
「するけど、具合悪いんじゃないか、平気か」

「誰が、そうさせてると」
「ぼくのせいなのか……」
「だぁああ! ちがう、ちがわないけどちがう、もう、いいから黙って」

一人でパニくるまつりを、ぼんやりながめる。
どうしたんだろう。




 カリカリ、と、鉛筆が紙を滑る音が響きわたる。あいつが何を考えているのかはぼくには、未だに全く理解出来ていないと思う。

 今だって勝手にこちらを見ては、心臓に悪いとか失礼なことしか言わないし、少しむっとしている。
なんなんだよ。
いつも、ベタベタとひっついてくるくせに……

 きみの感受性は直さないとヤバイとか言ってるまつりだが、ぼくの感情の変化に触れないのは、わざとだろうか。
 考えていたらさらにもやもやして、鉛筆をもつ手に思わず力がこもった。

「そんなに強く握らないの」
まつりはそう言って、くすくす笑う。
黙ってにらんでいると、最近事件なくて暇?
と聞かれた。

「少し、ね。でも、事件に合って変な人に絡まれてるよりかは、平凡な生活をしてる方がありふれてるからマシかも」

「マシだけど、刺激的じゃ、ないよね」

思わず、またまつりを見上げてしまった。
やばい、と慌てて遠ざかる。

「え、ちょ。なんで逃げた」
まつりは、今度はびっくりしたみたいに目を丸くする。


「だって。心臓に悪いんだろ」
「いや、それは」

曖昧な態度が気にくわなくて、部屋から出る。
課題は後にしよう。

「ぼくがいると、体調に差し支えるなら悪かった。少し部屋の掃除をしてくる。汚したのはぼくだし、一人でやるから」

ふいっと背中を向けて、本当に逃げるように部屋をでる。
まつりが背後で何か言いたそうにしていたが、知らない。
大体、あいつが悪いんだから。いや。……ぼくが、悪い。

頭を冷やさなくては。
部屋の隅のタオルラックにかかっていた雑巾を手にして、水で浸す。
ひんやりしていて、少し気持ちがよかった。

最近のまつりは、おかしい。いや、前からか。

急に怒るし、いきなりこちらを見るなということは前もあったし。勝手に遊びに行くなと怒るかと思えば、大体あいつはどっかに行く。
心臓に悪いとか、目に毒を塗られたみたいだとか、わけのわからないことばかり言うから、酷い。ぼくが可愛いとか言ってふざけてるわりに、避けられてばかり。

「……迷惑がかかっているのかな」

なんだか、むっとしてしまう。迷惑ならそう言えばいいのだ。