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- ナノ -
 まつりが生きててくれたら、ぼくはそれで良い。

「嬉しい」

「え?」

黙って、食事をする。
まつりがもう一度聞き返そうとするが、なんだか恥ずかしくなって俯いたままご飯を掻き込む。
ずっとずっと繋ぎ止めておけるような関係なんか無いのだろう。
ご飯を掻き込んでいたが、ふと見ると、まつりがそばで、「沢山食べて偉いね」と褒めていた。
いや……これは、その、と弁解しかけてやめる。代わりに、じっとそいつを見つめて呼んでみる。
「まつり」

「んー?」

生卵をかき混ぜながら、まつりはこちらを見る。
「なんでもないよ」

大好きだよ。
胸が痛い。
なぜだろう。
たまに、いつも、考える。
 わからない。
なぜぼくが生きなきゃならないのだろうか。
 たとえ誰かが居なくなったってそれによって気分が変わったりなどしない。なにも愉快じゃない。

 どうしてぼくでは無いんだろう。

 呼吸が早くなる。
まつりはじっとぼくを見ていた。首を横に振り、ひたすらにもがいていると、ゆっくり背中をさすってくれる。

「大丈夫だよ。終わったことじゃないか」

「終わりって何なんだよ……いったい、なんだよ」
終わったり、しない。
心のなかは。

「勝手に居なくならないでよ……」


「きみは言ったよね。惨殺事件があったあのお屋敷で、まつりたちはたまたま出会っただけ――
そしてそこに『居たから』手をのばしたんだ、って」

頷く。
身体が震えていた。
でも、心配させたりしたら、余計な負担になるから大丈夫なふりをして微笑む。

「ぼくは、生きていてはならなかった。医療も社会も。何もかもを、信じられなかった。誰も信じなかった。ぼくもぼくを信じていなかった。全部覚えている。誰が忘れたってぼくだけがただ、すり減っていって、なにも信用出来なくなっていくだけじゃないか!」

 まるで、死んでいるみたいに生きている。まつりは困ったような顔をした。
「記憶が、無いのも、同じことだよ。
なにも信じられないからこそ、頭で考えて選びとるしかない。だからこそ、流されたりせずに生きていられる」




 ときどき酷く不安定になる。事件の後やなにか難しいことをした後だ。 まつりも、数週間くらいはぼんやりしていたりするのだけれど。

「はい、ゆっくり、息して?」

 言われた通りに息を吐く。まつりが居なくなった朝は、どうすればいいのだろう。
 ただでさえ、誰も信じられないけれど、いつかはそこに踏み込まなければならない日が来るのだろうか。
まつりが居なくても。
ぼくは。

「きみは、慣れていないんだね……」

「慣れるって、なに」

「別れはいつか来る。仕方がない、だろ?」


 嘘と本当がはっきりしたらきっと、本当の話をしてくれるって思っていた。
誰に対してもそうだった。
でも、いつだってそれは残酷なのだ。

「エリさん……言いたいこと、あった気がするんだ。あの事件のときロッカーに貼ってあった地図だけじゃない。
もっといっぱい、ぼくに、まつりと一緒に、聞いて欲しいこと、が」


ぎゅ、と抱き締められる。苦しい。

「うん……でも、居ない、だろう?」

「なんで、いないの?」
「さぁ。なんでなんだろうね。そんな不安そうな顔したって、だめだぞ?」
「とかいって。みんな寝てるだけなんでしょ? 信じられないもの」

まつりがさらにきつく抱き締めてくる。苦しい。
「みんなぼくを、置いていかない。
少し意地悪してるだけ……からかってるんだよ」
「夏々都、もう――」

まつりにしがみつく。
ぼくは一番最初に、何を願っていたんだっけ。
寂しくて。
居場所が無くて。
怖くて。
ただ、なにもない場所が欲しかった。


周りを避けて遠くから見下ろせる場所だと、思った場所は
ただの××