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「まつり」

 じいっと、見上げてみると、そいつはただ、にこにこしていた。
夢のせいなのだろうか。胸が、いたい。

「どうしたの」

優しい目。
変わらない笑顔。
「夏々都」

 ぼくの居場所はまつりの側だけだ。もし、まつりにさえ見捨てられたら。誰も居なくなってしまったら……
考えてみると、とてつもなく怖くなる。
ぎゅ、と右手を握る。
包帯に少し血が滲んだ。
 ぼくがどれだけ世界が嫌いなのか、どんなに憎んでいるのか。

それを聞いてもまつりは笑わない。
救われる可能性のあるやつは救われればいい。
でも――ぼくは手遅れだ。だから、中途半端な他人にさえ、腹が立つ。

 いくら周りが許そうが、それがなんなのだろう。ぼくは許すことが出来ないし、忘れたりなんかしない。
いろんなものに失望して憎悪し、それなのにそれらを把握した上でそこで生き残る悲惨さ。
いっそのこと死んでしまいたい。
耐えられなくなりそうだ。誰か殺してくれたらいいのに。

――けれどそう思う度、代わりに誰かが傷つく。
ぼくを守ろうとする誰かが傷ついてしまうのが許せなくて消えるに消えられないまま、ずるずると生きている。

 昔は、生きていても死のうとしても、どちらも苦しいなんて日が来るとは思ってもみなかった。
 小さい頃は『どうにもならないくらいに傷ついたら死のう』と軽く考えていたものだ。
だから怖いものなんか、数えるほどしかなかった。ぼくは不思議と、死ぬことより生きる方が怖かった。

今は、どちらも恐ろしい。どうにも出来ないまま、嫌な記憶だけが蓄積されていく。
どこにも逃げ道が無い。だから。
だから。


「ななとくん、どうしたの? いつになくあまえんぼさんだね」

まつりが、ふふふ、と笑う。ぼくはただそいつに引っ付いて、目を伏せた。泣きたかった。
泣き方がわからない。

「うる、さい」

背中を撫でながら、まつりは自分の食事をしている。昔は、逆だった。
 まつりがぼくに引っ付いてて、ぼくはまつりに食事を与えていた。
怖くないよ、大丈夫。
ぼくが守ってあげる。
何度も呪文のように唱えながら、そいつが泣きじゃくるのを見ていた。

「はい、口を開けて」

「ん……」

一口サイズの玉子焼きをくわえさせられる。
ふんわりした甘さが口いっぱいに広がった。

「おいし、い」

「良かったぁ。いっぱい、練習したかいがあったよ」
まつりは、お屋敷での事件で一人になったあと、慣れない料理を始めた。メイドさんが今までしてくれていたことをすべて、自力で始めた。
 ぼくに食べてもらいたくて頑張ったのだからぼくのおかげだと、言うけれど。自らがなにも出来ないんだというのも同時に思い知らされる。

「今時インスタントとか、便利な道具とかもあるからね、自力で作りたかったのはきみが喜ぶものを、一から作りたかったからなんだよ」